2018年8月14日火曜日

日経「一目均衡」に見える小平龍四郎編集委員の限界

14日の日本経済新聞朝刊 投資情報面に載った「一目均衡~リーマンからテスラへ 」という記事は苦しい内容だった。事実誤認はあるし、拙い説明も目立つ。筆者である小平龍四郎編集委員には頑張ってほしいが、書き手としての限界は隠しようがない。
「おとしよりが出ます注意」の看板
(大分県日田市)※写真と本文は無関係です

まずは日経への問い合わせの内容を見てほしい。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 アジア総局編集委員 小平龍四郎様

14日の日本経済新聞朝刊 投資情報面に載った「一目均衡~リーマンからテスラへ 」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

むしろリスクマネーを調達する企業は、四半期の決算や開示が義務化されているかどうかにかかわらず、資本の提供者に経営や財務を小まめに説明するよう求められている。リーマン破綻後に米国型と異なる市場づくりを目指すようになった欧州も、主要な大企業の情報開示は頻繁かつ詳細だ。アジア各国も、共産党の影響力が強い中国を除けば、情報開示を促し投資家の声を経営に反映させやすくする方向で、市場改革が進む

小平様の説明を信じれば、シンガポールでも情報開示を促す方向で「市場改革」が進んでいるはずです。

しかし「シンガポール取引所、四半期開示の見直し検討 上場企業の負担緩和」という今年1月11日の日経の記事では以下のように報じています。

シンガポール取引所(SGX)は11日、上場企業に課している四半期決算の開示ルールの見直しを検討すると発表した。年4回の開示義務を年2回に軽減したり、開示が必要な項目を減らしたりする案を検討する。開示ルールを簡素化する世界の取引所の流れに対応する狙いだという

こちらは小平様の説明とは正反対と言っていい内容です。1月の記事で「東京証券取引所も17年3月期決算から決算短信の記載内容の一部を自由に変更できる簡素化に踏みきっている」と書いているように、日本も含めて「開示ルールを簡素化する」のが「世界の取引所の流れ」だと思えます。「アジア各国も、共産党の影響力が強い中国を除けば、情報開示を促し投資家の声を経営に反映させやすくする方向で、市場改革が進む」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

2つ目の質問です。記事の中で小平様は「決算発表でのアナリストへの八つ当たりやタイの洞窟救出劇で活躍したダイバーへの差別発言など、このところのマスク氏の言動は周囲の眉をひそめさせるものが目立った」と書いています。

米国のカリスマ経営者の一人、イーロン・マスク氏」の「差別発言」とは「タイの洞窟で遭難した少年サッカーチームを救った英国人ダイバーをツイッター上で『小児性愛者』と罵倒した」(7月19日の日経の記事)ことを指すのでしょう。

これは「差別発言」ですか。何に対する差別なのでしょう。「英国人差別」ですか。それとも「ダイバー差別」ですか。あるいは「小児性愛者差別」なのでしょうか。ちなみに7月19日の記事には「テスラCEO、英ダイバーへの罵倒発言を謝罪」という見出しが付いており「差別発言」とはしていません。

例えば、殺人に無関係な人を「人殺し」と罵るのは「差別発言」ですか。マスク氏の発言も似たようなものです。発言内容に問題があるのは否定しませんが、「差別発言」だとは思えません。

ついでに言うと「決算発表でのアナリストへの八つ当たりやタイの洞窟救出劇で活躍したダイバーへの差別発言」とすると「ダイバーはアナリストへの八つ当たりやタイの洞窟救出劇で活躍した」とも解釈できます。「決算発表でのアナリストへの八つ当たりや、タイの洞窟救出劇で活躍したダイバーへの差別発言」と読点を入れるべきです。

せっかくの機会なので、以下の記述についても問題点を指摘しておきます。

リーマン・ショックをきっかけに株式市場の短期主義を是正する手だてが、世界の市場当局者の間で議論されてきた。四半期決算・開示の見直しや攻撃的アクティビズムの抑制策なども浮上した。しかし、それらが企業行動を著しく短期的にさせると示す明確な証拠は多くない

小平様は「それら四半期決算・開示や攻撃的アクティビズム」のつもりで記事を書いているのでしょう。しかし、形式的に解釈すれば「それら=四半期決算・開示の見直しや攻撃的アクティビズムの抑制策など」となります。上手い書き方とは言えません。

付け加えると「それらが企業行動を著しく短期的にさせると示す明確な証拠は多くない」という曖昧な説明も引っかかります。

まず「著しく短期的にさせると示す明確な証拠は多くない」と言われると、「ある程度は短期的にさせると示す明確な証拠は多くある」のかとは思います。「著しく」の基準を明示していないのも気になります。

また「明確な証拠は多くない」との説明は「明確な証拠は少ないながらもある」と示唆しているようでもあります。この辺りは明確に書くよう心掛けてください。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇

記事の最後の段落で小平編集委員は以下のように書いている。

【日経の記事】

リーマンからテスラへ。10年を経てもなお市場の短期主義へのいら立ちは、時として間欠泉のように噴き出す。非公開化によって四半期決算から逃れることはできても、経営情報の開示が免除されるわけでは決してない。それが洋の東西を問わず、この10年で確認された資本のおきてだ。


◎訴えたいことがない?

上記の結論にツッコミを入れるのは難しくない。「非公開化によって」四半期ベースの「経営情報の開示が免除される」可能性は十分にある。日本の無借金企業の経営者が自分で全ての株を買い付けて「非公開化」する場合、四半期ベースで「経営情報の開示」をする必要はないだろう。
東京体育館(東京都渋谷区)※写真と本文は無関係です

「非公開後も大株主がいる場合の話だ」と小平編集委員は言うかもしれない。だが、そうは書いていない。また、大株主が求めた場合に「経営情報の開示が免除されるわけでは決してない」のは今も20年前も変わらない。「この10年で確認された資本のおきて」とは言い難い。

ただ、こうしたツッコミにあまり意味がないだろう。「それが洋の東西を問わず、この10年で確認された資本のおきてだ」と訴えたくて小平編集委員は記事を書いたのではないと感じるからだ。

「特に訴えたいことはないが『一目均衡』の順番が回ってきた。リーマンショックから10年の節目が近いので、それで何か書けないか。リーマンとテスラを結び付けたらどうだろう」などと考えて記事を書いたのではないか。

「だから説明に色々と問題があるし、結論にも説得力がない」と考えると腑に落ちる。個人的には「これを訴えたい」という明確な意思を持った記者に「一目均衡」を書いてほしい。適任なのは小平編集委員ではないはずだ。


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「一目均衡~リーマンからテスラへ 」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180814&ng=DGKKZO34117110T10C18A8DTA000


※記事の評価はD(問題あり)。小平龍四郎編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。小平編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 小平龍四郎編集委員  「一目均衡」に見える苦しさ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_15.html

基礎知識が欠如? 日経 小平龍四郎編集委員への疑念(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_11.html

基礎知識が欠如? 日経 小平龍四郎編集委員への疑念(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_73.html

日経 小平龍四郎編集委員の奇妙な「英CEO報酬」解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_19.html

工夫がなさすぎる日経 小平龍四郎編集委員の「羅針盤」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_3.html

やはり工夫に欠ける日経 小平龍四郎編集委員「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_11.html

ネタが枯れた?日経 小平龍四郎編集委員「けいざい解読」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_20.html

山一破綻「本当に悪かったのは誰」の答えは?日経 小平龍四郎編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/10/blog-post_10.html

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