2018年8月13日月曜日

記事の粗製乱造が過ぎる日経「鉱山機械、省人化磨く」

夏枯れの時期でネタがなく、日曜の紙面を埋めるのが大変なのは分かる。とは言え、12日の日本経済新聞朝刊 総合5面に載った「鉱山機械、省人化磨く 資源価格回復 日立建機、無人ダンプ」という記事は、レベルが低すぎる。日経のまとめ物は総じて問題のある記事が多いが、その中でも今回は粗製乱造が過ぎる。
旧門司三井倶楽部(北九州市)※写真と本文は無関係です

まずは最初の段落を見ていこう。

【日経の記事】

堅調な世界景気に加え電気自動車(EV)の増産で活況の鉱山分野で、建設機械大手が先手を打っている。日立建機は休みなく稼働する採掘現場の効率化に向け、石炭鉱山で無人ダンプの運行を実験する。コマツは買収した米鉱山機械メーカーが持つ地中深くの採掘に適した機械を、既存の顧客に売り込んでいく。



◎「先手を打っている」でまとめ?

最近の日経に多いのが2社でのまとめ物だ。以前も述べたが、業界動向をまとめるならば、最低でも3社は欲しい。業界に広がっている動きだと見せるためには2社では苦しい。

しかも今回は「先手を打っている」という聞き慣れないまとめだ。普通は「相次ぎ増産」とか「東南アジアへの進出広がる」といった話でまとめる。「鉱山分野で、建設機械大手が先手を打っている」という書き方にまず不安を感じる。

しかも取り上げるのは「日立建機」と「コマツ」のみ。両社の関連性の薄そうな話を「先手を打っている」で結び付けているのだから、さらに苦しそうだ。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

鉱山機械は資源メジャーなどが石炭や鉄鉱石の採掘、運搬に使う。資源価格の回復に伴い、建機メーカーの受注が増えている。石炭では国際指標のオーストラリア産が1トン100ドル超と、直近の最安値である16年初めの2倍以上に上昇した。

「中国で採掘ニーズが高まっている」(日立建機)。実際、日立建機は2018年4~6月期の鉱山機械の売上高が前年同期より31%多い355億円。コマツは14%増え2415億円だった。

世界の自動車メーカーがEVの車種を増やしており、電気モーターや各種部品の配線に大量に使う銅なども需要が拡大している。

建機大手の先行きに対する見立ては強気だ。日立建機の先崎正文執行役は「(18年度は)堅調な銅価格を背景にして中南米中心に需要増が見込まれる」と語る。コマツの今吉琢也執行役員は「受注が想定を上回る可能性がある」と話す。


◎なぜ背景説明を先に?

前文の後で4段落を背景説明に費やしている。「先手を打っている」話は後回しだ。これはニュース記事の原則に反している。日経では「新聞文章の基本」として以下のように定めているはずだ。

『要点先述』。一般の記事はニュースの核心となる部分から書き始め、重要度の順に沿って書き進める。読者にニュースのポイントを真っ先に伝えるためである。紙面が込んできた場合、記事が後方の段落から削られていくのに対処するためでもある

今回の記事では、記者だけでなく企業報道部のデスクも「まず背景説明」が気にならなかったようだ。だから日経は怖い。基本を身に付けていないデスクが、記者をまともに指導できるはずがない。

さて、いよいよ「ニュースの核心となる部分」に移ろう。ここもまた苦しい。

【日経の記事】

鉱山の採掘現場は年中無休の稼働が数十年間続く。人手が最も必要となるのがダンプを使った運搬作業だ。日立建機は省力化の需要をにらみ、オーストラリアで無人ダンプの開発を急ぐ。7月、石炭鉱山会社の豪ホワイトヘイブンと試験導入で合意。19年の事業化に向けて実験を始める

日立建機はホワイトヘイブンに無人ダンプを6台納める。無人システムではコマツが実用化で先行しているが、石炭鉱山での導入は珍しい。日立製作所が鉄道事業を持つ強みを生かし、機械の台数が増えても通信の混雑を抑えられる技術を活用できるところなどに特徴がある。



◎実験はいつ始める?

19年の事業化に向けて実験を始める」「無人ダンプを6台納める」と書いているが、いつ実験が始まり、いつ無人ダンプを納入するのかは謎だ。これは困る。
増水した筑後川と新しい神代橋(福岡県久留米市)
            ※写真と本文は無関係です

それにメインの事例にニュース性が感じられない。上記の話は7月9日に日立建機が発表した内容に沿っている。

「無人ダンプの実験相次ぐ」といったまとめ物の2番手や3番手の事例に使うのは理解できるが…。1カ月以上前に発表となったネタをメインに持ってくる度胸は悪い意味で凄い。

最後に、コマツの事例も見ておこう。

【日経の記事】

資源の採掘が進むと地表から掘る露天掘りではとりにくくなる。将来、地中に坑道をつくって採掘する坑内掘りが主流になると見込まれている。

コマツは17年に坑内掘り機械のメーカー、米ジョイ・グローバル(現コマツマイニング)を3000億円強で買収した。露天掘りの機械しか持っていなかったコマツは世界の事業拠点で坑内掘り用を売り込んでいる。

コマツは世界規模で販路を整えるため7月、マレーシアの自動車製造・販売会社UMWと、東南アジア5カ国で鉱山機械などの販売会社を設立すると発表した。



◎買収から1年以上が経過しているが…

これもかなり古い話だ。「米ジョイ・グローバル(現コマツマイニング)を3000億円強で買収」してから1年以上が経っている。つまり、コマツグループとして「坑内掘り機械」を売り始めてから1年以上になる。

ニュース性の乏しい話を2つだけ用意して、「鉱山分野で、建設機械大手が先手を打っている」と結び付けて90行以上のまとめ記事にする。「日経の粗製乱造もここまで来たか」と嘆くほかない。

おそらく記者は日経産業新聞の紙面を埋める過程で粗製乱造のやり方を習得し、それを日経本紙でも活用しているのだろう。日経の企業報道部で生きていくための知恵とも言えるので、同情すべき要素もある。そこが難しいところだ。


※今回取り上げた記事「鉱山機械、省人化磨く 資源価格回復 日立建機、無人ダンプ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180812&ng=DGKKZO34081440R10C18A8EA5000


※記事の評価はE(大いに問題あり)。

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