2018年3月2日金曜日

「裁量労働制で生産性向上」に根拠乏しい日経 水野裕司編集委員

2日の日本経済新聞朝刊では1面、総合1面(社説)、総合2面を使って「裁量労働制拡大先送り」を取り上げている。社説でも総合2面の「生産性向上 遠のく 裁量労働制拡大先送り、日本企業不利に」という記事でも、「裁量労働制の導入が労働生産性の向上につながる」と繰り返し訴えているが、その根拠となるデータは提示していない。これでは説得力がない。
有明海(佐賀県太良町)※写真と本文は無関係です

総合2面の記事で筆者の水野裕司編集委員は以下のように書いている。

【日経の記事】

 いま企業収益は好調だが、中長期の視点に立てば、裁量労働制の対象拡大の先延ばしは日本企業を不利にするだけだ。日本生産性本部の分析によれば、16年の日本の時間あたり労働生産性は経済協力開発機構(OECD)加盟の35カ国中、20位にとどまる。主要先進7カ国の中ではデータを追える1970年以降、最下位が続く。

その打開の糸口が裁量労働制の拡大と、成果をもとに賃金を払う「脱時間給」制度の創設だが、柱の1つが早くも先行き不透明になった。政府は働き方改革関連法案から切り離す裁量労働拡大について、できるだけ早く法案を提出する努力が求められる。

裁量労働制が働く時間の短縮に直接結びつくかのような安倍晋三首相の答弁は問題があったが、優秀な働き手なら、より短い時間で成果をあげられるのは事実だ。脱時間給制度も当てはまる。能力のある人が高い満足度を得られる制度づくりも経済・社会の活力向上には必要だ。


◎エビデンスはなぜ示さない?

水野編集委員が「時間あたり労働生産性」を使っているので、ここでは裁量労働制の導入で「時間あたり労働生産性」が向上するかどうかを考えたい。

これまで8時間労働で100の成果を出した人の中に「100の成果を出すのには1日4時間で十分。でも労働時間が8時間と決まっていたので残りの4時間はダラダラ仕事をしていた」という人がいたとしよう。裁量労働制の導入によって、こうした人が4時間で仕事を終えれば、時間当たりの労働生産性は2倍になる。

問題はこうした人がどの程度いるかだ。裁量労働制に労働時間短縮の効果があるのならば、「時間あたり労働生産性」の向上も期待できる。だが、水野編集委員も認めているように「裁量労働制が働く時間の短縮に直接結びつくかのような安倍晋三首相の答弁は問題があった」はずだ。だとすると、裁量労働制が「時間あたり労働生産性」を高めるという話にはデータの裏付けがあるのか疑問が湧いてくる。

水野編集委員は「優秀な働き手なら、より短い時間で成果をあげられるのは事実だ」とは書いているものの、裁量労働制の導入によって労働時間が短縮できるというデータも、生産性の向上に結び付くとのデータも示していない。これは辛い。

裁量労働制を導入すれば、企業が長時間勤務をさせやすくなるため、全体として労働時間が増える可能性も当然にある。その場合、「時間あたり労働生産性」の向上は期待しにくくなる。結局、どうなるかはデータに基づいて判断するしかない。政府が確固たるデータを示せないのならば、日経が「裁量労働制の導入は生産性の向上につながる」と言えるエビデンスを示すべきだ。示せないのであれば「生産性の向上につながる」との前提を捨てるしかない。


※今回取り上げた記事「生産性向上 遠のく 裁量労働制拡大先送り、日本企業不利に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180302&ng=DGKKZO27565460R00C18A3EA2000


※記事の評価はD(問題あり)。水野裕司編集委員への評価もDを据え置く。水野編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

通年採用で疲弊回避? 日経 水野裕司編集委員に問う(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_28.html

通年採用で疲弊回避? 日経 水野裕司編集委員に問う(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_22.html

宣伝臭さ丸出し 日経 水野裕司編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_26.html

「脱時間給」擁護の主張が苦しい日経 水野裕司編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_29.html

「コマツはセブンに変身」に無理あり 日経 水野裕司編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post.html

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