有明海(佐賀県太良町)※写真と本文は無関係です |
まずは記事の最初の方を見ていこう。
【日経の記事】
27日のダウ工業株30種平均は4営業日ぶりの反落。業績に安定感のあるインテルやボーイングなど製造業に買いが入る一方、前日に取締役会一新を発表したゼネラル・エレクトリック(GE)は1%安だった。
「最近のGEの会計は到底モデルとはいえない」。米著名投資家ウォーレン・バフェット氏は26日、米経済番組インタビューでGEについて苦々しく答えた。
GEは2018年1月に保険事業で62億ドル(約7000億円)の巨額費用計上を発表。バフェット氏が率いる投資会社は保険事業を手がけるだけに、理解に苦しむ様子だった。
すでに米証券取引委員会(SEC)はこの損失計上の経緯について調査を進めている。SECはGEの中核である産業部門の会計処理も調べているという。GEは一部の株主から適切な情報開示を怠りミスリードしたなどとして訴訟を起こされ、経営問題は会計手法に焦点が移りつつある。
◎「巨額費用計上」の何が問題?
「巨額費用計上」に何の問題があるのかが分からない。「バフェット氏が率いる投資会社は保険事業を手がけるだけに、理解に苦しむ様子だった」「米証券取引委員会(SEC)はこの損失計上の経緯について調査を進めている」などと、問題がありそうな雰囲気を出してはくるが、何が問題なのかを稲井記者は教えてくれない。
多額の損失を出すのは褒められた話ではない。ただ、経営実態に即した損失計上であれば「虚像」を生み出す要因にはならないはずだ。謎が解けないまま、記事では「1株利益」に話が移っていく。
【日経の記事】
実は、GEの会計を巡っては一部アナリストや投資家から不満があった。代表例が1株利益を示す指標だ。
具体的には「産業分野の営業利益」「産業分野の関連事業を含めた営業利益」「米国会計基準の継続事業ベースでの純利益」「米国会計基準の純利益」の4つの利益をベースに1株利益を四半期決算で提示してきたことだ。
GEの経営陣は産業分野にシフトする会社の実態をより適切に反映するとして「産業分野の関連事業を含めた営業利益」の1株利益を決算で強調してきた。
しかし、16年1~3月期に全社の状態を表す一般的な「米国会計基準の純利益」による1株損益は赤字だったにもかかわらず、「産業分野の関連事業を含めた営業利益」の1株損益は約0.2ドルの黒字となった。過去2年の傾向を見ると「産業分野の関連事業を含めた営業利益」の1株利益は4つの利益ベースの中で総じて最も高い。
「問題は明らかだった」。ドイツ銀行アナリストのジョン・インチ氏らから疑問の声はあった。しかし、ジェフ・イメルト前最高経営責任者(CEO)が主導したデジタル技術と製造業の融合、金融や家電からの実質撤退など新時代を踏まえた「選択と集中」に市場は目を奪われがち。肝心の「利益」については情報開示にも惑わされた。
◎惑わされる方に問題ありでは?
「肝心の『利益』については情報開示にも惑わされた」と稲井記者は書いている。だが、GEの開示に問題があるだろうか。4種類の1株利益を開示し、最も高い数字が出やすい「『産業分野の関連事業を含めた営業利益』の1株利益を決算で強調してきた」程度ならば、特に問題は感じない。
「卑弥呼の里あまぎ」の石碑(福岡県朝倉市) ※写真と本文は無関係です |
記者やアナリストは、4種類の中で経営実態をよく表していると思える1株利益で分析すればいいだけだ。GEが「強調してきた」1株利益にしか目が行かないとすれば、分析する側に問題がある。4種類の1株利益を正しく開示してきたのならば「虚像」と言われる筋合いはない。
次に記事の終盤を見ていこう。
【日経の記事】
問題は、社内も楽観的な数字見通しで動いていた面があったことだ。
18年の1株利益2ドル(産業分野の関連事業を含めた営業利益)――。イメルト氏がCEO退任発表の直前までこだわった目標だ。しかし、現CEOのジョン・フラナリー氏は17年11月にこの目標を1~1.07ドルと半減させた。そもそも達成困難だったのだ。
強気の経営にまい進するトップに悪い情報は届かなかったのだろう。結果、中核事業のタービンでは在庫の山を築き、管理が行き届かなくなった非中核の金融で問題が噴出。株価は過去1年で半減した。
「あまりにも経営の厳格さと規律を失った」。26日公表した株主への手紙でフラナリー氏はこう記した。適切な情報をベースにしなければ、正しい経営や投資判断はできない。「虚像」を排し「等身大」のGEを正確に映す会計の定着こそが、再生の第一歩となる。
◎これまでは「不正確」?
「1株利益2ドル」が強気過ぎて「1~1.07ドル」が適正なのかは、記事の情報だけでは何とも言えない。「強気の経営にまい進するトップに悪い情報は届かなかったのだろう」とも稲井記者は書いているが、この部分はあくまで推測だ。「GEを正確に映す会計の定着こそが、再生の第一歩となる」と言うものの、「過去にはGEの姿を不正確に移す会計を続けてきた」と思える材料が見当たらない。1株利益の目標も「不正確な会計」という類のものではない。
GEの会計問題は題材としては面白そうなのに、今回の記事では焦点が絞り切れていない印象を受けた。
※今回取り上げた記事「ウォール街ラウンドアップ~GE、『虚像』では踊れない」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180228&ng=DGKKZO27491390Y8A220C1ENI000
※記事の評価はC(平均的)。稲井創一記者への評価は暫定B(優れている)から暫定Cに引き下げる。
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