眼鏡橋(長崎県諫早市)※写真と本文は無関係です |
他紙を見ると「『出口』議論、19年頃に…黒田氏が初めて言及」(読売)、「黒田・日銀総裁 金融緩和の出口検討『19年度ごろには』」(毎日)などと、見出しにも「19年度」を使っている例が目立つ。「黒田氏が初めて言及」であれば当然の判断だ。「18年度」を強調しているのは、探した範囲では日経だけだった。
日経の記事の中身を見てみよう。
【日経の記事】
「現時点で18年度ごろに出口について具体的な議論を探るとは考えていない」
2%の目標達成時期と見通している19年度ごろには出口戦略を議論すると述べつつ、物価が上昇するまでは検討しない考えも示した。19年度までが2%の達成に向けた正念場の2年になるとの思いも透ける。19年10月に予定される消費税率の10%への引き上げ以降は、投資や消費が鈍って物価上昇の壁になる可能性があるためだ。
◎何への配慮?
日経の記者も「19年度」に関する発言に大きな意味があると分かっているはずだ。それでも「18年度」を柱に据えたのは、もちろん「あえて」だろう。記事を通して読むと「黒田総裁は緩和縮小観測を否定してますよ。だから早合点しないでね」と訴えたい気持ちは伝わってくる。
それでも今回の「所信表明と質疑」で重要なのは、やはり「19年度」だ。そこを「19年度ごろには出口戦略を議論すると述べつつ、物価が上昇するまでは検討しない考えも示した」と軽く触れて、見出しでも本文でも「18年度」に焦点を当てるのは不自然が過ぎる。
黒田氏は質疑の中で「現時点では、19年度ごろに2%の物価上昇に達すると見ている。当然、その頃出口を検討し、議論していることは間違いない」とまで述べている。
なぜ記事がこういう形になったのだろうか。記者・デスクの判断だけでこうはならない気がする。編集局局長・局次長クラスが「18年度を前面に出せ」と指示したためだと考える方が自然だ。株式市場や為替市場の動向に配慮したのかもしれないが、日経1紙でどうにかできる問題ではない。常識的な判断を捨ててまで「18年度」を強調する意味は感じられない。
今回の記事では、終盤に出てくる以下の説明も引っかかった。
【日経の記事】
「内外金融市場に適切に情報発信することも中銀総裁の大事な役割」
聴取中も黒田氏の出口に対する発言のうち「出口戦略を議論」との部分に市場が反応。長期金利が急騰し、円相場は一時1ドル=105円台半ばと1日夕比で1円超も円高が進んだ。17年7月まで日銀の審議委員を務めた木内登英氏は「正常化の地ならし」とまで読みリポートを配信。黒田氏と市場参加者との温度差が改めて感じられた。
冒頭の所信表明で対話を重要視する姿勢も打ち出した。市場参加者を驚かすサプライズ戦法が批判されてきた黒田氏だが、総仕上げに向かっては一段の対話力が求められる。
◎「温度差」ある?
記事の筆者は「黒田氏と市場参加者との温度差」があるとの前提で記事を書いている。「黒田氏は『正常化』に動く気がないのに、市場は『正常化』が近いと早合点している」との判断があるのだろう。だから「木内登英氏は『正常化の地ならし』とまで読みリポートを配信」という言い方になる。
しかし、「当然、その頃出口を検討し、議論していることは間違いない」とまで述べているのだから、口が滑ったのではないのならば「正常化の地ならし」と受け取るのは妥当だ。そう考えると「サプライズ」から「対話」への移行も進んでいるのではないか。
※今回取り上げた記事「緩和出口『18年度探らず』 日銀黒田総裁、再任案受け所信 物価2%達成最優先」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180303&ng=DGKKZO27633490S8A300C1EA2000
※記事の評価はC(平均的)。
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