2017年12月6日水曜日

「仮想」不在の日経ビジネス「外食に仮想レストランの波」

日経ビジネス12月4日号に「時事深層 INSIDE STORY~外食に『仮想レストラン』の波 出前代行サービスが起こす地殻変動」という記事が載っている。タイトルを見ると、「仮想レストラン」が次々に誕生しているような印象を受けるはずだ。しかし、記事で取り上げた事例で真の「仮想レストラン」は1つもない。
甘木鉄道 甘木駅(福岡県朝倉市)
      ※写真と本文は無関係です

記事の当該部分、日経BP社への問い合わせ、BP社からの回答を続けて見てほしい。

【日経ビジネスの記事】

飲食店の出前を代行するサービスが急増している。新聞販売店の従業員や一般の人に配達を委託し、多くの飲食店を巻き込む。その結果、店舗を持たないバーチャルレストランが外食業界で存在感を高めつつある

今、製薬会社のMR(医薬情報担当者)の間で人気の弁当がある。Butcher & Deli FUJIYAMA(ブッチャーアンドデリ フジヤマ)の牛肉弁当だ。あるMRのサイトでは、著名な焼肉専門店の弁当を上回り、最も満足度が高い弁当に挙げられる。

MRは夜の接待が制限され、医者とコミュニケーションをとるのが難しくなっている。その代わり増えているのが、弁当の差し入れだ。医者たちと弁当を食べながら、薬の説明をする。フジヤマの弁当が人気なのは、コストパフォーマンスが良いからだ。黒毛和牛カルビ二段弁当で2160円など2000円前後のメニューが多い。MRは病院などで温かい弁当を受け取る。

フジヤマの弁当は、一般の人にはあまり知られていない。それは、店舗を持たないバーチャルレストランだからだ。東京都品川区のキッチンで弁当を作ることに経営資源を投入し、弁当を1日当たり300食販売する。多いときは500食になるという。

好調な弁当販売を支えているのが、出前代行だ。楽天が運営する「楽びん!」などを活用。バイクやスタッフを用意することなく、手数料の支払いで出前を委託できる。フジヤマを経営するギゼンの藤山敬一社長は、「出前代行があってこそ、店舗を持たないビジネスモデルが成功した」と振り返る。

ギゼンは、2010年から東京・表参道でレストランも運営していた。ただ、店の賃料や人件費などコストがかさみ店舗は12年に閉店を余儀なくされた。再起を期したのが現在のバーチャルレストランのモデル。好調なため16年には店舗を再び出店し、18年からは出前代行をフル活用し、個人宅への販売を強化する方針だ。


【日経BP社への問い合わせ】


日経ビジネス編集部 大西孝弘様 河野祥平様 宇賀神宰司様

12月4日号の「時事深層 INSIDE STORY~外食に『仮想レストラン』の波 出前代行サービスが起こす地殻変動」という記事についてお尋ねします。記事では、ギゼンが運営する「Butcher & Deli FUJIYAMA(ブッチャーアンドデリ フジヤマ)」に関して「フジヤマの弁当は、一般の人にはあまり知られていない。それは、店舗を持たないバーチャルレストランだからだ」「再起を期したのが現在のバーチャルレストランのモデル」と説明しています。これを信じればフジヤマは現在も「店舗を持たないバーチャルレストラン」のはずです。
古賀病院21(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

しかし、記事では「好調なため16年には店舗を再び出店」とも記しており、矛盾が生じます。店舗を構えて商品を受け渡ししているのであれば「バーチャルレストラン」とは言えません。フジヤマの現状を「バーチャルレストラン」と紹介するのは誤りではありませんか。店を構えて出前もするという、ありがちな「モデル」にしか見えません。店を出した後も「店舗を持たないバーチャルレストラン」に当たるとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

付け加えると、記事の冒頭では「店舗を持たないバーチャルレストランが外食業界で存在感を高めつつある」と言い切っていますが、具体例として出てくるのはフジヤマだけです。唯一の事例が「店舗を構えて出前をする弁当店」だとすれば「店舗を持たないバーチャルレストランが外食業界で存在感を高めつつある」との説明も怪しく思えてきます。実際には「存在感」は乏しいのではありませんか。本当に「存在感を高めつつある」と言えるのならば、それを裏付ける事実を記事中で提示すべきです。

出前代行サービス」の話で記事を作ろうとしたが、それでは地味なので「仮想レストラン」を前面に出すことになり、無理のある説明になった--といった事情が透けて見えるような気もします。しかし、それは読者には関係のないことです。看板に偽りのない記事作りを心掛けてください。


【日経BP社からの回答】

ご購読いただきありがとうございます。いただいた質問にご回答させていただきます。

ギゼンが運営する「Butcher & Deli FUJIYAMA(ブッチャーアンドデリ フジヤマ)」は、店舗を持たず牛肉弁当の調理に特化しています。ギゼンの経営者は、店舗運営の負担がないことから調理に集中できて、販売を伸ばすことができたと語っています。

ご指摘のように2016年に出店しました。これはバーチャルレストランの経営が好調だったため、さらなる収益拡大を図ったという背景があります。メニューも違うので、バーチャルレストランと店舗の運営は別々にしています。また今後もバーチャルレストランを経営の中心にするという方針で、外部から人材を招き、個人宅への出前を強化していく予定です。

誌面スペースの関係で載せることはできませんでしたが、従来からピザや寿司のように店舗を持たず、デリバリー特化型のバーチャルレストランは数多くございます。これまでは自社でバイクや従業員を抱え、出前をするケースが多かったのですが、最近は自社で出前システムを構築せず、出前代行のインフラを利用する事業者が登場してきました。

また、出前代行ではないものの、昨今の宅配ニーズを受けて、デリバリー特化型として店舗を持たず、ピザや寿司以外にも、様々な料理を提供するバーチャルレストランが増えています。こうした業者は、受発注については「出前館」などの情報インフラに乗るなど、新たな仕組みの活用に積極的です。一方で、宅配寿司を展開してきた事業者が出前代行を始めるど、業容を広げている例もあります。

記事で紹介した米国だけでなく、中国でもバーチャルレストランが普及しつつあります。日本でも出前サイト運営の経営者が、こうした業態を広げるための新たなビジネスモデルを検討しているようです。

ご質問をいただき、誠にありがとうございます。読者に伝わりやすい表現を心がけ、執筆・編集に努めたいと存じます。

◇   ◇   ◇

苦しい回答ではある。「ギゼンが運営する『Butcher & Deli FUJIYAMA(ブッチャーアンドデリ フジヤマ)』は、店舗を持たず牛肉弁当の調理に特化しています」と言い切りながら「ご指摘のように2016年に出店しました」とも書いており、矛盾を解消できていない。店舗があるのならば「バーチャルレストランを経営の中心にする」のではなく「出前を経営の中心にする」と考えるべきだ。
福岡県立朝倉高校(朝倉市)※写真と本文は無関係です

従来からピザや寿司のように店舗を持たず、デリバリー特化型のバーチャルレストランは数多くございます」という説明も無理がある。確かに寿司やピザでは「デリバリー特化型」も珍しくない。だが、多くの場合「店」はある。「デリバリー特化型のバーチャルレストラン」と言うならば、看板を掲げた店がなく、ネット注文に特化している必要がある。電話などで注文を受ける出前専門の寿司店を「バーチャルレストラン」とは呼ばないはずだ。回答を含めて考えても、少なくとも日本では「外食に仮想レストランの波」が来ている感じはしない。

それでも回答をしたこと自体は高く評価したい。東昌樹編集長の下で日経ビジネスが正しい方向に向かっていると実感できる。


※今回取り上げた記事「時事深層 INSIDE STORY~外食に『仮想レストラン』の波 出前代行サービスが起こす地殻変動
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/depth/112800840/?ST=pc


※記事の評価はC(平均的)。大西孝弘記者への評価は暫定B(優れている)から暫定Cに引き下げる。河野祥平記者への評価はCで確定とする。宇賀神宰司記者は暫定でCとする。さらに、最近の日経ビジネスの内容、間違い指摘への対応などを総合的に評価して、東昌樹編集長への評価をB(優れている)とする。

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