2017年12月5日火曜日

友野典男 明大教授の「サンクコスト」の解説に異議あり

週刊エコノミスト12月12日号の特集「すぐに使える新経済学」は内容の目新しさに欠けるものの、出来は悪くない。ただ「五つのキーワードで解説 行動経済学でわかる私たちが不合理な理由」という記事に出てくる「サンクコスト」の解説は間違いだと思える。筆者の友野典男 明治大学教授はこの分野の専門家なので誤りを指摘するのは気が引けるが、どう考えても納得できなかったので編集部に問い合わせを送ってみた。その内容は以下の通り。
宝満川(福岡県久留米市・佐賀県鳥栖市)
       ※写真と本文は無関係です

【エコノミストへの問い合わせ】


週刊エコノミスト編集部 担当者様  
明治大学教授 友野典男様

12月12日号の特集「すぐに使える新経済学」の中で、友野様が書かれた「五つのキーワードで解説 行動経済学でわかる私たちが不合理な理由」という記事についてお尋ねします。記事では「サンクコスト」に関して以下のように解説しています。

バイキング料理で料金の元を取ろうとして食べ過ぎてしまったことはないだろうか。バイキング料理に5000円払ってしまったら、もう5000円は戻ってこない。このように、既に支払ってしまって、回収不能なコストを『サンクコスト』と言う。このコストには金銭ばかりでなく、時間や労力も含まれる。合理的な選択では、サンクコストである5000円のことは忘れて、どれだけ食べれば適切なのかだけを考えて食べる。カロリー摂取量を気にしていたり、ダイエット中だったりしたら、そこそこで食べるのをやめればよい。しかし、つい食べ過ぎてしまうのは、もう戻らない5000円にとらわれて非合理的な選択をするサンクコスト効果のためだ。私たちが陥りがちな強固なバイアスの一つと言われている

サンクコスト」とは「すでに支出され、どのような意思決定をしても回収できない費用のこと」(デジタル大辞泉)を指します。「バイキング料理に5000円」を払う場合、食べることによって投資を「回収」できるはずです。食材の原価で回収度合いを計算するとしましょう。5000円が「サンクコスト」ならば、食べ始めた段階で「回収不能」となっているはずです。しかし、本人の健康などに問題が生じない範囲で原価5000円分の食事ができれば投資は「回収」できます。ゆえに「サンクコストどのような意思決定をしても回収できない費用)」とは言えません。

このコストには金銭ばかりでなく、時間や労力も含まれる」とするのであれば、「回収」にも「食事の楽しさ」などを含めてよいでしょう。そうなれば、さらに「回収」は容易になります。

バイキング料理に支払った5000円を「サンクコスト」とする説明は誤りではありませんか。控えめに言っても、例として不適切だと思えます。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。
須賀神社(福岡県朝倉市) ※写真と本文は無関係です

御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある対応を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

サンクコスト」の解説には続きがある。ここでも1つ指摘しておきたい。

【エコノミストの記事】

公共事業や企業経営でもサンクコスト効果は生じ、「コンコルド効果」と呼ばれることもある。

英仏が共同開発した超音速旅客機「コンコルド」は、完成しても採算が取れる見通しがなかったために開発途中で中止も検討された。しかし、それまでに投資した巨額のコストが無駄になるという理由で開発が強行された。その後に完成・就航したが赤字は累積し、事故も起こし、早々に運航中止になった

開発を途中でやめれば、確かにそれまでの投資は回収できない。だが、赤字額は開発を強行した場合よりもずっと少なく済んだはずだ。



◎コンコルドは「早々に運航中止」?

ブリタニカ国際大百科事典によると、「(コンコルドの)定期便は 1976年1月 21日、ロンドンから英国航空、パリからエールフランスが同時に運航を開始した」という。「2003年全機引退した」ので、定期便の運航開始から全機引退までに20年以上を要している。これを「早々に運航中止になった」と説明するのは無理がある。


※今回取り上げた記事「五つのキーワードで解説 行動経済学でわかる私たちが不合理な理由
http://mainichi.jp/economistdb/index.html?recno=Z20171212se1000000037000


※記事の評価はD(問題あり)。友野典男教授への評価も暫定でDとする。

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