2017年12月17日日曜日

保険料抜きで就業不能保険の実力探る日経 佐藤初姫記者

16日の日本経済新聞朝刊マネー&インベストメント面に載った「稼ぎ時『働けない』に備え 保険、家計を長期カバー」という記事は、端的に言えば広告の域を出ていない。筆者の佐藤初姫記者は最初の段落で「家計の緊急事態に対応する就業不能保険の実力を探った」と謳うものの、記事には「実力」を測る上での重要な要素が抜けている。
福岡大学(福岡市城南区)※写真と本文は無関係です

記事の一部を見てみよう。

【日経の記事】

 「いざという時に家族を路頭に迷わせるわけにはいかない」。さいたま市に住む自営業、久我貴秀さん(37)は3年前、がんで父親を亡くした。10年以上闘病する様子を間近で見て、自分と家族を守るための保険の必要性を痛感した

マイホーム購入を機に加入を検討していたところ、T&Dホールディングスの太陽生命保険の担当者が飛び込みで営業に来た。がんなど三大疾病を含む幅広い病気を保障対象とする点だけでなく、仕事ができなくなった時の家族の暮らしのことも想定した保険に入るべきだと考えた。給付金が出る保険だった。

(中略)就業不能保険は特別な事情で働くことができなくなる事態、いわゆる「機会損失」に着目している。収入が減る部分を保険で補い、その後も家計を支える。

(中略)久我さんのように自営業者や非正規雇用者など国民健康保険加入者だと対象外。久我さんが加入した太陽生命の「働けなくなったときの保険」では、50歳までの契約で、毎月30万円を給付金もしくは年金の形で受け取れる。要介護1以上に認定されると一時金300万円、受取合計額は満期までで4980万円となる。

最大手の日本生命保険は10月に「もしものときの…生活費」を発売した。2カ月半ですでに契約件数5万件を突破。好調な滑り出しの背景には、「もしも」の対象を広げたことにある。

日生は、この保険の対象に会社員や自営業者だけでなく、専業主婦(専業主夫)も加えている。家事が出来なくなることも、その家庭・家計にとっての重大な損失と認定する。認可保育園の費用や外食費、ハウスクリーニング代などを給付金で補えるようにした。

ケガや病気のほかに、精神・神経疾患の場合も保障対象とした。60日以上働けない状態が続いた場合、保険金の支払いを始める。今のところ契約者は30~40代の働き盛りの男性が多いというが、「主婦層や非正規社員からの契約も想像以上あり、驚いた」(神山亮弘商品開発課長)と話す。

住友生命保険は、大手でいち早く就業不能保険に対応した。2015年に「未来デザイン ワンアップ」の取り扱いを始め、契約件数は累計85万件に達している。働けない状態が30日続くと保険金の支払いが始まる。他社の商品が支払い開始までの期間を60日に設定する所が多いなか、早い段階で保険金を受け取れる特長がある。

公的な制度と連動しており、障害年金の等級や介護保険の要介護2以上に認定されると、保険金の支払い対象になる。仮に加入者の状態が回復しても、契約年齢に達するまで支払いが続くのもこの商品の特徴だ。奈良県に住む20代の女性は9月、結婚を機に夫婦そろってワンアップに加入。親族から来年2月の出産を控え保険への加入を勧められたという。「これから子どもができることを考えると、夫や自分に何かがあっても保険に入っていると安心できる」と話す。


◎保険会社に恩がある?

自分と家族を守るための保険の必要性を痛感した」「これから子どもができることを考えると、夫や自分に何かがあっても保険に入っていると安心」などと、保険会社のパンフレットに出てきそうな文言が続く。佐藤記者は保険会社に何か恩でもあるのだろうか。
田川伊田駅(福岡県田川市)※写真と本文は無関係です

就業不能保険」だから、働けなくなった時に「保障」があるのは当然だ。問題は保険料との兼ね合いで魅力的かどうかだ。「50歳までの契約で、毎月30万円を給付金もしくは年金の形で受け取れる」としても、その保険に入るべきかどうかは保険料を見なければ判断できない。なのに、佐藤記者は保険料に全く触れず、「就業不能保険」の「保障」について延々と述べている。これでどうやって保険の「実力」が探れるのか。

記事では最後の段落で、申し訳程度に注意喚起している。

【日経の記事】

もっとも就業不能保険はほぼすべてが掛け捨てタイプで、支払った分は原則戻ってこない。就業不能と認定する定義も会社ごとに異なり、加入時に確認する必要がある。いずれにせよ「健康」に勝る保険などない点は忘れてはいけない。



◎そこを論じないと…

就業不能と認定する定義も会社ごとに異なり」というのは、その通りだろう。だが、そこを個別に見ていかないと「就業不能保険の実力を探った」ことにはならない。

保険料、就業不能の認定基準、保障内容、それらを総合して「実力」が決まってくるはずだ。仮に「就業不能保険」はどの会社の商品も魅力的だと佐藤記者が感じたのならば、そう判断した根拠を示すべきだ。「ダメなものも良いものもある」のならば、具体的にどこがダメでどこが良いのか踏み込んでほしい。

今回のような記事内容では、保険会社の利益代弁者と受け取られても仕方がない。紙面の性格から言っても、記事は保険会社のためではなく読者(保険契約者、あるいは保険契約を考えている人)のために作るべきだ。今回それができているとは言い難い。


※今回取り上げた記事「稼ぎ時『働けない』に備え 保険、家計を長期カバー
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171216&ng=DGKKZO24682570V11C17A2PPE000

※記事の評価はD(問題あり)。佐藤初姫記者への評価も暫定でDとする。

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