2017年12月18日月曜日

「働きやすさ」の格付けになってる? 日経スマートワーク経営調査

大がかりで無駄な調査と言えばいいのだろうか。18日の日本経済新聞朝刊1面トップに「『働きやすさ』収益に直結 Smart Work本社調査 格付け上位40社の4割が最高益」という記事が載っている。「スマートワーク経営調査」とは「上場企業・有力非上場企業602社を『働きやすさ』の視点で格付けした」ものらしいが、「働きやすさ」との関連はかなり乏しい。ゆえに「『働きやすさ』収益に直結」との関係も見出しにくい。
JAにじ耳納の里(福岡県うきは市)
           ※写真と本文は無関係です

調査について記事では以下のように説明している。

【日経の記事】

多様で柔軟な働き方の実現、新規事業などを生み出す体制、市場を開拓する力の3要素によって組織のパフォーマンスを最大化させる取り組みを「スマートワーク経営」と定義した。調査ではコーポレートガバナンス(企業統治)などの経営基盤も加えて各社の総得点を算出し、格付けした


◎「働きやすさの視点で格付け」なのに…

調査では「多様で柔軟な働き方の実現、新規事業などを生み出す体制、市場を開拓する力の3要素」に「コーポレートガバナンス(企業統治)などの経営基盤も加えて各社の総得点を算出し、格付けした」という。

これらの中で「働きやすさ」と直接の関係があるのは「多様で柔軟な働き方の実現」だけだ。4要素のうち3要素で「働きやすさ」との関連が薄いとなると、「『働きやすさ』の視点で格付けした」とは言い難い。

百歩譲って「働きやすさ」の格付けになっているとしても、以下の説明には納得できなかった。

【日経の記事】

総得点の偏差値が65以上の40社には、コニカミノルタやダイキン工業、アサヒグループホールディングス、花王、イオン、NTTドコモなどが名を連ねる。

40社のうち、6割強の26社(未上場の2社を除く)が今期の純利益で増益を見込む。4割の17社(同)は過去最高を更新する見通し。上場企業全体では、最高益を見込む企業は24%だった


◎因果関係を断定するなら…

朝刊1面トップの見出しで「『働きやすさ』収益に直結」と打ち出したのだから、その根拠はしっかりと説明してほしい。上記のくだりから「『働きやすさ』収益に直結」と判断できるだろうか。
旧三池炭鉱宮浦坑煙突(福岡県大牟田市)
        ※写真と本文は無関係です

記事では「収益」を「過去最高を更新する見通し」かどうかで見ている。「総得点の偏差値が65以上」だと「4割」が更新見通しで「上場企業全体では、最高益を見込む企業は24%だった」という。

これは比較対象が適切ではない。比較するならば、上場企業のうち今回の調査に協力した「587社」の何割が最高益の更新見通しとなっているかを見るべきだ。業績不振の問題企業は、こうした調査に回答したがらない傾向が強そうだと推測できる。ゆえに上場企業全体で見ると最高益比率が低く出たのかもしれない。「587社」をベースにすると最高益比率が「4割」近くに上がる場合、記事の根幹が揺らぐ。

実は「上場企業全体」が「調査に回答した上場企業全体」を指しているという可能性も、わずかながら感じる。だとしたら、それが明確に伝わる書き方を選ぶべきだ。

また、「働きやすさ」と「収益」に因果関係があるとしても、それは記事で言うような「社員の能力を最大限に引き出す経営が、高い成長につながっている」のではなく「収益性の高さが働きやすさを実現させる余裕を生み出している」のかもしれない。そうした可能性はきちんと考慮したのだろうか。

今回の調査が「働きやすさ」の格付けになっているとしても、「『働きやすさ』収益に直結」と言い切るためには、以上のような問題がある。さらに今回は「働きやすさ」と関連が薄い項目を3つも加えている。これでは「働きやすさ」と「収益」の関係を測るデータとしては使えない。「新規事業などを生み出す体制」や「市場を開拓する力」の優れた企業を選び出せば、最高益比率が高くなりやすいのは当然だ。

スマートワーク経営調査は今回が初めて」らしい。初回での打ち切りを推奨したい。


※今回取り上げた記事「『働きやすさ』収益に直結 Smart Work本社調査 格付け上位40社の4割が最高益
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171218&ng=DGKKZO24653800U7A211C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。

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