九州大学伊都キャンパス(福岡市西区) ※写真と本文は無関係です |
【日経へのメール】
特集面の「(4)成長力強化へ人材集中」という記事で触れた「労働生産性」に関する提言が特に気になりました。そこでは以下のように書いています。
<記事の一部>
これからAIの普及が進めば、いまある仕事でもなくなるものが増えていくと予測されています。人とカネをかけるべき分野を厳選し、成長性の低い産業から成長の可能性の高い産業へ資源を集中していく。無駄な業務を捨てる決断も必要です。そして人材も成長分野に大胆に移す。技術革新を背景に、今後5年ほどで世界トップクラスの労働生産性を達成すべきです。
◆ ◆ ◆
問題は3つあります。
まず目標が非現実的です。提言では「1人当たりの労働生産性を、5年で世界トップクラスに引き上げる」と訴えています。これは現実的な目標でしょうか。
特集面に載せた労働生産性に関するグラフを見ると、日本はOECD加盟国でトップに位置するアイルランドの約半分の水準です。これを「世界トップクラスに引き上げる」ためには、就業者1人当たりのGDPを5年で2倍にしなければなりません。就業者数は5年間でそれほど大きく変化しないでしょうから、GDPの総額も5年で2倍近くになるはずです。潜在成長率がゼロに近いと言われる日本で、GDPを5年で2倍に増やそうとするのは、あまりに非現実的です。
「最初から諦める必要はない」と考え直して、達成に向けた手段に目を向けてみましょう。しかし、記事には「人とカネをかけるべき分野を厳選し、成長性の低い産業から成長の可能性の高い産業へ資源を集中していく」「人材も成長分野に大胆に移す」などと抽象的な話が出ているだけです。どれが「成長の可能性の高い産業」なのかさえ示していません。
目標達成のための具体策がないのに、非現実的な目標を掲げて何か意味があるのでしょうか。これだと何のために「日経働き方改革賢人会議」を立ち上げたのかという話になってしまいます。
さらに言えば「1人当たりの労働生産性を、5年で世界トップクラスに引き上げる」というのは「働き方改革」に関する提言なのでしょうか。記事に付けたグラフから判断して、数値目標となるのは「就業者1人当たりのGDP」でしょう。「労働時間当たりのGDP」ではありません。就業者1人当たりのGDPで見るのならば、労働者が生み出す成果の総量を維持したまま労働時間を減らしても「労働生産性」は上がりません。
「1日16時間労働で成果100」だった労働実態が「8時間労働で成果100」になれば「働き方改革」としては大きな前進です。しかし、提言で問題にしている「1人当たりの労働生産性」には影響を及ぼしません。仕事を効率化した後で「16時間労働で成果200」を選べば「1人当たりの労働生産性」はもちろん向上します。しかし、これだと長時間労働の是正ができません。「働き方改革」に関する提言ならば、「時間当たりの労働生産性」を引き上げるように考えるのが筋ではありませんか。
◇ ◇ ◇
日経は「人とカネをかけるべき分野を厳選」と言うが、誰が「厳選」するのか。政府だろうか。例えば政府が「バイオとITを成長分野に認定しました。ここに資源を集中させていきます」などと宣言するのだろうか。その上で「非成長分野」から強引に人を連れてきて「成長分野に大胆に移す」のか。
ブリュッセルの王立モネ劇場 ※写真と本文は無関係です |
政府に「(今後有望な)成長分野」を正しく選別する能力があるとは思えない。「成長分野」の企業としても、人材の採用は自分たちの判断でやりたいだろう。「御社は成長企業に認定されました。政府が非成長分野から100人を御社の社員として連れてきます」などと言われても迷惑なだけではないか。
「厳選」するのが個別企業の経営者ならば、「それは日常的にやってますよ」と言われるだろう。不十分な面があると言うのならば、提言の中で具体的に指摘してほしい。今回のような提言内容では、提言する側の「本気度」が疑われるだけだ。
※今回取り上げた記事「(4)成長力強化へ人材集中」
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170225&ng=DGKKZO13365610U7A220C1M10900
※記事の評価はD(問題あり)。「日経働き方改革有識者提言」に関しては以下の投稿も参照してほしい。
「働き方改革提言」主体は「日経」それとも「有識者」?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_25.html
日本の労働生産性は「世界の中位」? 「日経働き方改革有識者提言」の騙し
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_86.html
働き方改革有識者提言と事例に齟齬 日経1面「働く力再興」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_38.html
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