皇居周辺の菜の花(東京都千代田区) ※写真と本文は無関係です |
黒田氏の最大の罪は、短期的には収拾が不可能なほど金融緩和を押し進めてしまったことだ。次の総裁が反リフレ派であっても、すぐに金融引き締めへ転じるのは難しいだろう。市場での日銀の存在感が大きくなりすぎたので、わずかな“引き締め”が巨大な衝撃を与えかねない。
なのに出口戦略について黒田氏は「時期尚早」とかわし、議論する姿勢さえ見せない。気持ちは分からなくもない。例えて言うならば、ミッドウェー海戦で惨敗した後の日本のようなものだ。戦果が華々しかったのは開戦当初だけで、今や劣勢は明らか。だが、戦線を広げ過ぎてしまって、自分のメンツが潰れない形で戦いを終わらせる術はもはやない。だから、終わらせ方の議論さえ拒んでしまい、さらに収拾が難しくなる。
前置きが長くなったが、そんな「史上最悪の日銀総裁」に関する「人物ルポ」を週刊東洋経済が3週にわたって連載していた。「日銀総裁 黒田東彦 知将の誤算」というタイトルで、筆者は西澤佑介記者。結論から言えば、素晴らしい出来だった。
前編では、姉、学生時代の同級生、大蔵省時代の先輩など様々な人物の証言を通して、優秀さが際立っていた若き日の黒田氏の様子を浮かび上がらせている。中編では「大蔵省(現財務省)国際金融局長だった榊原英資」氏との出会いが後のサプライズ重視の姿勢へとつながったと分析してみせる。そして後編では「誤算の連続だった」異次元緩和を論じ、それでも「“敗北”を認めない」黒田氏の今を描いている。
連載の最後(3月4日号)で西澤記者はこう締めている。
【東洋経済の記事】
知とともに歩んだ成功譚は、自分の頭脳、知の働きを強く信じさせるには十分だろう。だからこそ、本質的に認められないのではないか。これまで蓄積してきた知を結集した挑戦が、人生で最も際立った誤算となったことを。今の黒田を縛るものは、最大の強みだった「頭の書庫」なのではないか。
それを認めるのは黒田にとって、どれほどの葛藤なのだろう。心中は、あの笑顔に隠され、身近な人も知ることができない。
◇ ◇ ◇
この結論には説得力がある。要は、勝ち続けてきただけに、負けを受け入れられないのだろう。
黒田氏という卓越した頭脳の持ち主が主導した危険で壮大な実験は失敗に終わった。その後始末について議論さえしないまま黒田氏は表舞台から姿を消すはずだ。後始末を短期で終わらせようとすれば激しい痛みを伴い、痛みを避けようとすれば気の遠くなるような時間を要する。後に続く世代に巨大な負の遺産を残した「黒田東彦」とはどういう人物なのか、我々はよく知っておくべきだ。その意味で、黒田氏の実像に冷静かつ批判的な視点で迫った西澤記者を高く評価したい。
※記事の評価はA(非常に優れている)。西澤佑介記者への評価も暫定D(問題あり)から暫定Aに引き上げる。
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