2017年2月26日日曜日

働き方改革有識者提言と事例に齟齬 日経1面「働く力再興」

日経働き方改革有識者提言」をさらに取り上げる。ここでは25日の朝刊1面に載った記事の問題点を指摘したい。簡単に言えば「提言と事例が合っていないので説得力がない」ということだ。
筑紫女学園大学(福岡県太宰府市)
        ※写真と本文は無関係です

日経に送ったメールの内容は以下の通り。

【日経へのメール】

「日経働き方改革有識者提言」を取り上げた記事について、追加で意見を述べさせていただきます。1面の「働く力再興~成長の条件(上)崖っぷちは好機」という記事でまず引っかかったのが以下の事例です。

<記事の一部>

組織に寄りかからない一人のプロとして腕を磨く(日経提言)

鹿島の1年目、箆津(のつ)杏奈(25)は現場監督としての経験を積む。工事は想定通り進まないこともあるが、「崖っぷちはチャンス。乗り越えたらプロとして成長できたということ」。

箆津は2011年夏、豪雨被害を受けた奈良県十津川村で山肌が崩れ落ちた「深層崩壊」の現場を目の当たりにした。「自然災害から命を守る土木の仕事を窮める」と決めた。成長が社会貢献につながる今、「学生時代より楽しい」と話す。

◆  ◆  ◆

上記の「現場監督」の話は「組織に寄りかからない」ことと、どう関連するのでしょうか。入社間もない女性社員が与えられた仕事を一生懸命にやっているだけのように見えます。例えば「フリーの現場監督」「1年契約の現場監督」ならば「組織に寄りかからない」存在かもしれません。しかし、普通の新入社員であれば、仕事を頑張っているからと言って「組織に寄りかからない」とは感じられません。もし普通の新入社員とは一線を画しているのであれば、その点を説明すべきです。
アントワープ市内(ベルギー)※写真と本文は無関係です


「プロ」に関しても納得できませんでした。記事に出てくる箆津さんが「現場監督一筋に生きる前提で採用された社員」ならば分かります。しかし、そんな記述はありません。営業や経理に回される可能性のある社員ならば、「組織に寄りかからない一人のプロとして腕を磨く」例として取り上げるのは適切ではないでしょう。

さらに言うと「崖っぷちはチャンス」とのコメントにも説得力がありません。「崖っぷち」の根拠としては「工事は想定通り進まないこともある」という話しか出てきません。「想定通りに進まないだけで『崖っぷち』と言われても…」とは思います。本当に「崖っぷち」に追い込まれていたのならば、それが伝わるように説明すべきです。「崖っぷちは好機」と大きな見出しにもなっているのですから、もう少し工夫すべきでしょう。

次の事例も、どう理解すればいいのか悩みました。

<記事の一部>

不安を感じずに職場を変わり、次の仕事に前向きに取り組めるようにする(日経提言)

初田真也(32)は昨年、J2などでの9年間のプロサッカー生活に終止符を打った。半年の就職活動を経て選んだのは、サッカー関連でなく、星野リゾート。ホテルのサービスを担当する。引退後、初めて違う仕事に挑み、自分の幅を広げた。選手時代にファンサービスで磨いた「おもてなし」のスキルも役立つ。夢のJ1からホテルへとステージを変え人を笑顔にする。

◆  ◆  ◆

これは「不安を感じずに職場を変わり、次の仕事に前向きに取り組めるように」なった事例なのでしょう。しかし、就職活動を「半年」もしていたのならば、「不安を感じずに」転職できたとは思えません。それに、これもサッカー選手が引退して畑違いの分野に飛び込んだというだけの話です。読者はここから何を汲み取ればいいのでしょうか。

例えば、転職支援の新たな取り組みに触れて「こういった取り組みがもっと広がれば、異業種への転職も不安を感じずにできそうだな」などと感じられる事例にすべきです。

付け加えると、「初田真也」さんがJ1でプレーしたことがあるのかどうかも分かりませんでした。「J2などでの9年間のプロサッカー生活」との記述は「J1ではプレーできなかった」と示唆しているように見えます。しかし「夢のJ1からホテルへとステージを変え人を笑顔にする」と書いてあると、「夢のJ1」のステージにかつては立っていたと解釈したくなります。

全体的に見ると、1面の囲み記事としては完成度がかなり低いと思えます。記事に説得力があるかどうかを十分に検討してから紙面化するよう心掛けてください。

◇   ◇   ◇

※今回取り上げた記事「働く力再興~成長の条件(上)崖っぷちは好機
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170225&ng=DGKKASDF23H1A_T20C17A2MM8000

※記事の評価はD(問題あり)。「日経働き方改革有識者提言」に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「働き方改革提言」主体は「日経」それとも「有識者」?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_25.html

日本の労働生産性は「世界の中位」? 「日経働き方改革有識者提言」の騙し
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_86.html

具体策なしに非現実的な目標「日経働き方改革有識者提言」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_66.html

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