柳川の川下り(福岡県柳川市) ※写真と本文は無関係です |
個人向け国債に関しては「発行後1年たてば直近2回分の利子相当額は引かれるが、国が元本で買い取ってくれる」と藤井記者も書いているように、流動性リスクを心配する必要はない。しかし社債の流動性は非常に低く、証券会社に買い取ってもらう場合、元本を割り込む可能性が十分にある。この点では明らかに個人向け国債に劣っている。
藤井記者は個人向け国債について「変動10年は半年ごとに適用利率を見直す仕組みなので、市場金利が上昇すると適用利率も上がり利子が増える。『マイナス金利はずっと続くわけではない。将来の金利上昇に備えるのに向いている』(根本氏)」とも書いている。この説明に問題はない。一方、個人向け社債はどうか。基本的に固定利率なので「将来の金利上昇に備える」のには向いていない。ここでも個人向け国債(変動10年)に見劣りする。
そもそも社債の利回りが魅力的なのかとの問題もある。
【日経の記事】
そこで運用成績の上乗せ手段として注目が集まるのが個人向け社債だ。元利を受け取れない可能性を示す信用リスクは個人向け国債より大きいが、その分高い金利が期待できるからだ。例えばANAホールディングスが9月に発行した4年債の利率は、年0.258%だった。
個人向け社債の発行額は増えている。アイ・エヌ情報センター(東京・千代田)によると、1~9月の発行額は1兆5790億円。すでに前年通年を上回り、今年一年では2009年(2兆1602億円)以来7年ぶりの水準に達するのは確実だ。個人の需要が強いのに加え、企業は事業に必要な資金を超低金利で調達できることが発行額を押し上げている。
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ANAの個人向け社債への投資を考える場合、個人向け国債と比べてどの程度の上乗せが適正水準なのかを知りたい。しかし、藤井記者は何の手掛かりも与えてくれない。ただ、「ANAホールディングスが9月に発行した4年債の利率は、年0.258%だった」と述べているだけだ。
ANAと同格の格付けの社債利回りが市場でどの程度なのかぐらいは入れてほしい。個人的には(1)企業の信用リスクを負う(2)流動性が低い(3)将来の金利上昇に対応できない--という点を考慮すると、0.2%程度の利回り上乗せのために社債を買う気にはなれない。
「いや、個人向け社債もなかなか魅力的だ」と藤井記者が考えるのならば、そう納得できるだけの材料を提示してほしい。それがないのに「個人向け国債と組み合わせるのが選択肢になりそうだ」と安易に書くのは罪深い。
新型劣後債に関する説明にも問題が散見される。
【日経の記事】
今年に入って発行が目立つのが劣後債の一種で、新型劣後債やハイブリッド債などと呼ばれる債券だ。9月までの個人向け社債発行本数29本のうち12本と4割強を占める。劣後債は普通社債に劣後特約を付けたもので、発行企業が万が一経営破綻などをした際に元利返済が他の債務より後回しになる。その代わり利率が普通社債に比べ高い。新型劣後債はさらに利率が高い場合が多く、様々な条項や特約が付いているのが特徴だ。
まず代表的なのが期限前償還条項だ。発行企業の判断で満期前の特定日に償還することができる。実質破綻時免除特約は発行企業が法的に倒産する前でも、実質的に破綻していると政府が認めた場合に元利金の支払いが全額免除になる。こうした特約・条項のある新型劣後債は銀行が発行する例が目立ち、利率も高めだ。例えば、三井住友フィナンシャルグループが9月に発行した10年債は当初5年が年0.32%だ。
銀行で発行が相次ぐのは、リーマン・ショックを機に導入した金融機関の国際的な資本規制「バーゼル3」で劣後債の一部を自己資本に組み入れることを認めているからだ。同規制では残存期間が5年を下回ると、資本として計上できる額が減る。このためFPの深野康彦氏は「新型劣後債のほとんどが早期償還すると考えておいた方がよい」と指摘する。
銀行以外では損害保険ジャパン日本興亜やソフトバンクグループが発行している。いずれも利払い繰り延べ条項が付いている。発行企業の裁量で利子の一部またはすべての支払いを延期できるのが特徴だ。その分、信用リスクが大きくなるため利率も高くなりやすい。損保ジャパン日本興亜の30年債は当初10年が年0.84%、ソフトバンクの25年債は当初5年が年3%だ。
劣後債にはどんな投資スタンスで臨めばいいのだろうか。FPの和泉昭子氏は「資本として組み入れられる劣後債はリスクも株式に近いことを意識すべきだ」と指摘する。特約や条項によっては元本割れの可能性があるため、キャッシュフロー計算書や貸借対照表などの財務諸表をもとに投資判断をすることが一段と重要になりそうだ。
実際に投資する際は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の資産配分比率が一案になる。GPIFは14年秋に決めた新配分比率で、国内債券を35%、残り65%を国内株式・外国債券・外国株式とした。深野氏は「現役世代なら、劣後債は国内債券の約4分の1程度までに抑えるのが無難だろう」と助言している。
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劣後債について「特約や条項によっては元本割れの可能性があるため、キャッシュフロー計算書や貸借対照表などの財務諸表をもとに投資判断をすることが一段と重要になりそうだ」と藤井記者は書いている。しかし、「特約や条項」がどうなっていようと「元本割れの可能性」は必ずあるはずだ。記事の説明だと、「特約や条項」次第では元本割れの心配なしとの印象を与えてしまう。
劣後債の「投資スタンス」に関する説明も奇妙だ。「実際に投資する際は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の資産配分比率が一案になる。GPIFは14年秋に決めた新配分比率で、国内債券を35%、残り65%を国内株式・外国債券・外国株式とした」と述べた上で、「現役世代なら、劣後債は国内債券の約4分の1程度までに抑えるのが無難」との結論を導いている。
しかしGPIFが劣後債をどの程度組み込んでいるのかには触れていない。GPIFの「国内債券を35%、残り65%を国内株式・外国債券・外国株式」という配分比率をどう参考にすれば、「劣後債は国内債券の約4分の1程度まで」となるのか。話が飛躍し過ぎている。
また、藤井記者は「キャッシュフロー計算書や貸借対照表などの財務諸表をもとに投資判断をすることが一段と重要になりそうだ」と簡単に言うが、劣後債の発行企業の「キャッシュフロー計算書や貸借対照表」をきちんと分析した上で「特約や条項」なども十分に考慮しながら投資判断をすることが一般の投資家に可能だろうか。
投資初心者にはもちろん無理だし、財務分析の知識がかなりあっても難しい。現実的な助言としては「劣後債はもちろん個人向け社債には、よほどの知識がない限り近づくな」といったものになりそうな気がする。見出しにあるような「国債と併せ持つ」必要性は感じられない。
※記事の評価はD(問題あり)。暫定でC(平均的)としていた藤井良憲記者への評価は暫定Dへ引き下げる。藤井記者については「仕組み預金は『比較的安全』? 日経 藤井良憲記者に問う」(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_16.html)も参照してほしい。
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