旧秋田商会ビル(山口県下関市) ※写真と本文は無関係です |
「金融機関ごとの最も低コストの外国型投信で30年間運用した場合の信託報酬の累計額」というタイトルが付いたこのグラフでは「SBI証券」「A銀行」「B銀行」の信託報酬累計額を棒グラフで示している。もちろんSBIが最も少ない。
これに関する記事の記述は以下のようになっている。
【日経の記事】
個人型DCは自分で金融機関を選び毎月掛け金を拠出、運用次第で年金が変わる。掛け金の全額所得控除など税制優遇が大きい。企業年金のない会社員や自営業者などしか入れなかったが、来年から現役世代の大半が対象になる。ただ「もうからない」と意欲がない金融機関も多く、そうしたところでは、引き続き高コストの商品しか選べない。
コストでどれくらいお得度が変わるか。外国株投信で毎月2万3千円(企業年金のない会社員の上限額)を積み立てた場合で試算した。SBI証券の外国株で最安商品の信託報酬は年0.23%。年4%で30年運用なら信託報酬の合計は50万円弱だ。同じ外国株インデックス投信でも、比較的高コストのA銀行なら信託報酬は年1.03%で計約170万円になる。
別のB銀行では外国株はコストが高いアクティブ型投信しかなく信託報酬は1.9%。30年では約300万円だ。アクティブ型投信は運用担当者の腕で平均を上回ることを目指すが、長期のコスト差を取り返すのは容易でない。
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なぜ銀行名を伏せるのか。「手数料が高い金融機関の例として実名を出したら銀行に申し訳ない」といった意識が働いているとすれば、やはり田村編集委員は金融機関の回し者だ。「ここでは信託報酬の違いが30年でどの程度の差になるのかを見せるのが目的であり、金融機関の名前を出す必要はない」と判断したのならば、SBIの名前も出すべきではない。
「うちの会社はライバルのA社やB社よりこんなにお得です」といった類の比較広告は見た記憶がある。今回の記事に付けたグラフはまさにそれだ。「(個人型DCは)『もうからない』と意欲がない金融機関も多く、そうしたところでは、引き続き高コストの商品しか選べない」と田村編集委員は書いている。「意欲がない金融機関」がどこかも読者にとっては有用な情報だと思えるが、そこは金融業界への配慮優先らしい。金融機関と読者のどちらの利益のために田村編集委員が記事を書いているのかは明らかだ。
ついでに記事の終盤についても注文を付けておきたい。
【日経の記事】
低コスト化は通常の投信でも同様だ。ニッセイは今回のDC向けとは別に「購入・換金手数料なし」という割安投信シリーズを持つ。しかし大和証券投資信託委託が先月発売した低コスト投信シリーズ「iFree」はさらに割安。個人投資家から「ニッセイは対抗上、DC用に続き、次は通常の投信も引き下げるのでは」との期待が出ている。
観測は正しそうだ。複数の投信販売会社幹部は「ニッセイは近く、購入・換金手数料なしシリーズの投信8本の信託報酬をiFreeよりさらに引き下げると聞いている」と話す。自分の知識と判断次第で低コストの大きな恩恵を受けやすくなっている。
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記事では「低コスト化は通常の投信でも同様だ」と書いているが、コストに関する具体的な数値は全く出てこない。これは苦しい。「ニッセイは今回のDC向けとは別に『購入・換金手数料なし』という割安投信シリーズを持つ」「大和証券投資信託委託が先月発売した低コスト投信シリーズ『iFree』はさらに割安」「ニッセイは近く、購入・換金手数料なしシリーズの投信8本の信託報酬をiFreeよりさらに引き下げる」などと書いてあげれば、良い宣伝にはなるだろうが…。
※記事の評価はD(問題あり)。田村正之編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。F評価については「ミスへの対応で問われる日経 田村正之編集委員の真価」(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_58.html)を参照してほしい。業界寄りの記事作りに関しては「『投信おまかせ革命』を煽る日経 田村正之編集委員の罪」(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_3.html)でも触れている。
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