2016年9月5日月曜日

内閣府を妄信?日経「働く女性、労働時間短い国ほど多く」

「役所の言うことを何も疑わないで書いたんだろうなぁ…」と思える記事が5日の日本経済新聞朝刊総合・経済面に出ていた。「働く女性、欧州で5割超 労働時間短い国ほど多く 内閣府分析」という記事では「労働時間が短い国ほど働く女性の割合が高い傾向がある」と言い切っているが、どうも怪しい。
早稲田大学(東京都新宿区) ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

内閣府は労働時間が短い国ほど働く女性の割合が高い傾向があるという分析をまとめた。年間労働時間が1719時間の日本は女性の労働参加率が経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均並みの48%にとどまる。一方、年間労働時間が1371時間と少ないドイツが52%など、欧州諸国では働く女性が5割を超す国が多かった。

内閣府がOECD加盟国を対象に、年間労働時間と女性の労働参加率の関係を調べた。年間労働時間が1612時間のスウェーデンが64%、1646時間のフィンランドも58%と、北欧は女性の労働参加率が高い。これに対し、2113時間の韓国が49%、1725時間のイタリアは35%にとどまった。

労働参加率が高い国は育児と仕事を両立しやすい制度も充実している。ドイツやフィンランド、デンマークなどは残業時間を休暇に振り替える仕組みがあり、年次休暇を消化しやすい。スウェーデンには子供が8歳になるまで労働時間を短縮できる制度がある。

1419時間で54%のオランダは働き方の多様化を進めたことが女性就労の増加につながった。女性のパート比率が76%と欧州連合(EU)平均の32%よりも高いが、賃金や昇進では正社員と同じ権利を保証する。

内閣府は労働時間の短縮だけでなく、自宅で働くテレワークなども女性の就労拡大につながるとみている。

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この記事には「欧州では女性の労働参加率が高い」というタイトルが付いた表が載っている。そこでは2015年時点での「年間労働時間」と「女性の労働参加率」を比べている。各国の数値は以下のようになっている。

◆「年間労働時間」と「女性の労働参加率」

ドイツ(1371 52.4)
オランダ(1419 54.5)
デンマーク (1457 54.1)
スウェーデン(1612 64.4)
英国(1674 54.5) 
日本(1719 48.1)
米国(1790 53.7)
韓国(2113 49.9)

これを見て「確かに、労働時間が短い国ほど女性の労働参加率が高い」と思えるだろうか。

この中で労働時間が最も短いのはドイツだが、労働参加率では8カ国中6位。労働時間が2番目に長い米国よりも労働参加率は低い。一方、労働参加率でトップのスウェーデンは労働時間の短さでは4番目に過ぎない。労働参加率では他国を大きく引き離している割に、労働時間は長めだ。

表からは「働く女性、労働時間短い国ほど多く」といった傾向は読み取りにくい。OECD加盟国の中から記事の趣旨に合うように8カ国を選んでいるはずだ。それでもこのレベルなのだから、「年間労働時間」と「女性の労働参加率」に相関関係はないか、あっても非常に小さい気がする。

仮に相関関係があっても因果関係があるとは限らない。因果関係があるとしても「労働時間が短いから女性の労働参加率が高まる」のではなく「女性の労働参加が増えると労働時間が減る」という関係かもしれない。そうした問題もあるので、この手のデータの扱いには慎重であるべきだ。「内閣府が言ってるんだから…」と思考停止するようでは困る。

内閣府は労働時間が短い国ほど働く女性の割合が高い傾向があるという分析をまとめた」のであれば、それを記事にするなとは言わない。だが、内閣府の分析の妥当性は記事にする段階できちんと検討すべきだ。

「分析内容に注文を付けるような文言を記事に入れたら、これからネタがもらえなくなる」という反論があるかもしれない。それに対しては「ネタがもらえなくなっても仕方がない」と答えるしかない。役所の言い分を疑いなく垂れ流すだけの役割しか果たせないのなら、メディアとしての存在意義はない。


※記事の評価はD(問題あり)。

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