2016年8月28日日曜日

実力不足が目立つ日経「花王、化粧品の海外販売強化」

日本経済新聞には「書き手としての基礎ができていない」と思える記事が頻繁に載る。若手記者がきちんと書けないのは、ある意味で当然だ。デスクさえしっかりしていれば、一定の水準を満たしていない記事が世に出る余地はない。実力不足のまま年数を重ねた記者がデスクになり、チェック機能を果たせていないのが日経の現状だろう。28日の朝刊企業面に載った「花王、化粧品の海外販売強化 高機能品を投入」は、そんな状況を反映した記事の1つと言える。
武道館(東京都千代田区) ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】 

花王は化粧品事業で海外展開を強化する。「ソフィーナ」ブランドの新シリーズを来年3月から香港などで発売、18年からは中国でも出す。現在年間約700億円の売上高のソフィーナ事業を早期に1000億円に引き上げるため、炭酸を使うなど高機能な化粧品を海外に投入する

来年以降発売するのは「iP」や「ボーテ」シリーズで、炭酸の泡を肌に浸透させる高機能な美容液などを展開する。海外ではまず百貨店などで発売、来店した人にカウンセリングしながら商品の販売増を見込む。香港の百貨店では現在の直営店でブースを設けるほか、台湾も店舗を改装して対応する。

花王は研究開発を背景にした商品設計を前面に出した販促活動を徹底する。中国戦略を見直しており、これまで店舗の縮小やブランドの絞り込みを進めてきた

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短い記事だが、問題点は山盛りだ。列挙してみたい。

◎香港は中国に属さない?

来年3月から香港などで発売、18年からは中国でも出す」と書くと、「香港は中国の一部ではない」と解釈できる。だが、言うまでもなく香港は中国の一部だ。「18年からは中国本土でも出す」などとすべきだろう。


◎「炭酸を使う」と「高機能」?

炭酸を使うなど高機能な化粧品」「炭酸の泡を肌に浸透させる高機能な美容液」と言われても、どこが「高機能」なのかよく分からない。例えば「炭酸は肌荒れを防ぐ効果があるものの、肌に浸透させるのが従来は難しかった」といった説明があれば「高機能」だと納得できるのだが…。

企業面の記事は女性だけに向けてはいないはずだ。化粧品を使わない男性にも違和感なく読めるように仕上げてほしい。


◎「海外展開を強化」と書くなら…

記事の冒頭で「花王は化粧品事業で海外展開を強化する」と書いているのに、中国と台湾の話しか出てこない。花王は欧米でも事業を展開しているはずだ。ならば、簡単でもいいので欧米を含む海外での化粧品事業全体の動きに触れるべきだ。欧米の話を抜きに書きたいのならば「アジアでの展開」「中国での展開」などとしてほしい。


◎「海外」の数字を入れよう

記事では、花王の化粧品事業に関して「現在年間約700億円の売上高のソフィーナ事業を早期に1000億円に引き上げる」とは書いている。これは国内も含めた数字だろう。記事には海外の状況を表す数値が見当たらない。「化粧品事業で海外展開を強化する」と訴えているのだから、化粧品事業の海外での売上高がどの程度で、それをいつまでにどこまで伸ばそうとしているのかといった情報は入れたい。

それが無理なら、中国での売上高でもいい。中国での「iP」や「ボーテ」シリーズの販売目標を入れる手もある。しかし、実際には「海外展開を強化する」と言えるだけの具体的な数値が皆無だ。これは苦しい。


◎縮小路線を転換?

記事の最後に「中国戦略を見直しており、これまで店舗の縮小やブランドの絞り込みを進めてきた」と出てくるのも引っかかる。これまでは縮小路線だったのに、今後は拡大へ転じるという話なのだろうか。だとしたら記事では「中国での縮小路線を転換」と明確に打ち出した方がいい。

縮小路線を続ける中で、例外的に「『ソフィーナ』ブランドの新シリーズ」だけ強化するという可能性もある。だとしたら、そこも記事中できちんと説明すべきだ。


※記事の評価はD(問題あり)。

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