熊本大学五高記念館(熊本市) ※写真と本文は無関係です |
今回の連載は早川麗、藤川衛、江口良輔、三島大地の4人の記者が担当だ。彼らへの助言という形で、記事の問題点を指摘してみたい。
記事の全文は以下の通り。
【日経の記事】
働く女性の増加は新たなビジネスチャンスを生む。紳士服の青山商事は女性向け専門店の出店を始めた。「女性管理職の増加などでスーツの需要も伸びる」と見たからだ。
女性も働くことで世帯としての懐は温かくなってもおかしくない。家計調査では15年の世帯主の配偶者の収入は前年より7.1%増えた。女性の社会進出で新たな消費が生まれ、関連産業が潤うはずだが、ここにも節約志向が影を落とす。
青山商事のスーツの平均単価は3万8千円程度。百貨店などのブランド品に比べれば安い。10分間1千円で成長したヘアカット専門店のキュービーネット(東京・渋谷)は若い女性らを狙った新型店を展開するが、料金はスタイリングを含めても2千円だ。
8日の政府の経済財政諮問会議では民間議員の伊藤元重・学習院大教授が「日本経済は五右衛門風呂だ」と指摘した。風呂釜にあたる労働市場は熱くなっているのに、水である個人消費は少しぬるいと例えた。
時計の針を日銀の異次元緩和が始まった3年前に戻す。今も続く金融政策は「期待」に働きかける政策だ。みんながインフレになると思えば眠っていたマネーが動き出し、最終的には消費が増えるとの理屈だ。
日銀によると13年6月調査で「1年後に物価が上がる」と答えた人は全体の80.2%もいた。株価も上がり高額消費は好調。円安が進んだ割には海外旅行も堅調だった。期待で消費が動き始めたのは事実だ。ところが、今年6月調査では物価上昇を予測する割合は72.4%に低下した。
「デフレからの脱出速度を最大限まで引き上げる」。安倍晋三首相は28兆円超の経済対策をまとめ、日銀も追加金融緩和で呼応した。財政政策と金融政策の協調でしぼんだ期待の復活を探るが消費に響くか。
都内のメーカーで働く田中昂義さん(25)は「賃上げは続くのか、年金はもらえるのか、銀行の金利は低くて利子は付かないし、先行き不安はつきない」と話す。スーパーのチラシで丹念に安いモノを探し、コツコツと節約する。
経済学者のなかには構造改革はデフレ圧力になるとの考え方がある。だが、雇用や社会保障の改革を先送りすれば、将来不安が残りデフレ圧力がくすぶる。それを示したのがアベノミクスの3年間だった。やはり、希望や安心をつくる構造改革こそが消費再点火のカギとなる。現場はそう語っているように見える。
◆担当記者らへの助言◆
今回のような囲み記事を書くときには「説得力」が重要です。記事を通じて何を訴えたいのか、そのためにはどういう材料を用意すればよいのかを十分に検討して記事の構成を決めるべきです。
今回の結論は「構造改革こそが消費再点火のカギ」です。「現場はそう語っているように見える」との説明が説得力を持つためには「構造改革を進めれば消費は盛り上がる」「構造改革が進まないから消費が振るわない」と読者に感じさせる「現場」の事例が不可欠です。
記事には以下のような事例が出てきます。
・紳士服の青山商事は女性向け専門店の出店を始めた。
・青山商事のスーツの平均単価は3万8千円程度。百貨店などのブランド品に比べれば安い。
・10分間1千円で成長したヘアカット専門店のキュービーネット(東京・渋谷)は若い女性らを狙った新型店を展開するが、料金はスタイリングを含めても2千円だ。
これらの事例は「構造改革こそが消費再点火のカギ」だと語っていますか。記事を繰り返し読んでみましたが、消費の「現場」と構造改革の関連は伝わってきませんでした。
記事では「雇用や社会保障の改革を先送りすれば、将来不安が残りデフレ圧力がくすぶる。それを示したのがアベノミクスの3年間だった」と書いています。しかし、その根拠は見当たりません。例えば、消費税率を20%に引き上げ、公的年金の支給水準を現行の半分に引き下げるとしましょう。これは思い切った「社会保障の改革」になるはずです。その場合、消費に火が付くでしょうか。
記事に出てくる田中さんは「年金はもらえるのか」と不安を感じています。給付水準の大幅削減という「構造改革」によって、田中さんの消費意欲が高まるでしょうか。常識的には「年金には頼れない。今のうちに蓄えを増やさなければ…」と消費を抑えてしまいそうです。
24日の(上)に付けたグラフには「増税後の消費は低迷」というタイトルが付いています。取材班のみなさんの考えが正しければ、増税で消費に火が付いてもいいはずです。しかし、現実にはそうなっていません。むしろ逆です。なのに、なぜ「構造改革こそが消費再点火のカギ」になるのですか。
おそらく「構造改革こそが消費再点火のカギ」だとは取材班のみなさんも思っていないのでしょう。記事をまとめるために何らかの結論が必要だったので「取って付けた」のではありませんか。だとすれば、記事の作り方の出発点から間違っています。
「取って付けた結論ではない。構造改革こそが消費再点火のカギだと訴えたくて記事を作ったんだ」という場合、明らかな実力不足です。どうすれば説得力のある記事になるのか、根本から見直す必要があります。
※連載の評価はD(問題あり)。暫定でDとしていた藤川衛記者への評価はDで確定させる。早川麗、、江口良輔、三島大地の各記者はいずれも暫定でDとする。
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