2016年7月13日水曜日

日経の高橋里奈記者 「スタバ」で触れていない肝心なこと

肝心なことを書いていない記事を読まされると、何とも言えない不満が残る。13日の日本経済新聞夕刊マーケット・投資1面に載っている「ウォール街ラウンドアップ~スタバ、株価反発の裏の悲鳴」という記事(筆者はニューヨーク支局の高橋里奈記者)はその典型だ。スターバックスの従業員が人員不足の解消を訴えてきたことに対して、経営側は賃上げを決め、賃上げの原資を得るために値上げに踏み切るという話のようだ。しかし、「人を増やしてくれるのか」に関しては、ほとんど説明がない。
熊本城(熊本市) ※写真と本文は無関係です

少し長くなるが、記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

ダウ工業株30種平均は12日、最高値を更新した。米景気に対する悲観論の後退や、米連邦準備理事会(FRB)の利上げが遅れるとの見方が支えた。米国の直営店での値上げを発表したスターバックスも反発した。前日は賃上げを発表し、「賃上げ→値上げ」が株高の背景にある。

「拝啓、従業員様」。11日、スターバックスのハワード・シュルツ最高経営責任者(CEO)は自ら「パートナー」と呼ぶ従業員に向けた手紙を公開した。全米にある約1万2700店のうち6割を占める7600店の直営店で、従業員と店舗マネジャーの約15万人を対象に10月3日付で5%以上の賃上げをするという内容だ。その文面はひどく感傷的だった。

「この週末、あなたがたと重要なニュースを分かち合うことを準備していた私は、ある言葉を見つけた。信用だ」

シュルツ氏は従業員に「あなたがたの信用を得ることが私にとって基礎的な原則」と訴えかけ、最低5%の賃上げと、2年以上の勤務者には1年ごとに与えるスターバックス株式を2倍にすることなどを表明。勤務体系もより柔軟にするほか、「多様性や自己表現を尊重する」として服装規定も緩和するとした。

リベラル派として知られるシュルツ氏が感傷的な手紙の公開に踏み切った背景には、疲弊しきった従業員の反発がある。

「スターバックス史上、最も過酷な人員削減が行われており、9年近い勤務経験の中でも(従業員の)モラールは最低だ」。従業員のジェイミー・プレイターさんは「適切な人員に増やし、少しでも息をつけるようにしてほしい。さもないと顧客サービスは下がる一方だ」として、オンラインで待遇改善を求める署名活動を始めた。

実際、ニューヨーク市内のターミナル駅にある店舗には長い行列ができており「堪忍袋の緒が切れそうだ」と怒りをあらわにする男性客もいた。店内の従業員は3人のみ。スマートフォンで事前注文できるようになってから注文が増えたが、人員増が追いつかない

「シフト管理者としては、必要な人員の2分の1から3分の2しか確保できていない。我々は皆、ひどい過労にさいなまれている」「全社的に利益は上がり続けているのに、スタッフは長い行列、労働力の欠如に追い込まれている」。請願には次から次へと賛同の声が集まり、直近で1万3千人以上が署名した。

「社員を大切にする」イメージを掲げるシュルツCEOだが、賃上げには原資が欠かせない。賃上げを発表した11日に株価は続落したが、値上げを発表した12日は2%高。下落分を補ってあまりある上昇だった。発表の順序もしたたかだ。

「スターバックス株は正当な価格で成長すると信じている」(RBCキャピタル・マーケッツ)と市場の期待は大きい。21日は4~6月期の決算発表が控えている。

----------------------------------------

適切な人員に増やし、少しでも息をつけるようにしてほしい」という従業員の要望に対する答えが「最低5%の賃上げと、2年以上の勤務者には1年ごとに与えるスターバックス株式を2倍にすることなど」なのだろう。これは「人は増やせない。でも賃金は上げるから我慢してくれ」と理解すればいいのか。そうかもしれないが、記事中に明確な説明はない。

そもそもスターバックスで人が増えているのか減っているのかもはっきりしない。「スターバックス史上、最も過酷な人員削減が行われており」と書いているので、人減らしの真っ最中なのかなと最初は思った。ところが、その後に「人員増が追いつかない」と出てくる。肝心なことには触れないくせに、読者を惑わせるような情報はちりばめる。高橋記者は読者に嫌がらせでもしているつもりなのか。

記事によると「ニューヨーク市内のターミナル駅にある店舗には長い行列ができており『堪忍袋の緒が切れそうだ』と怒りをあらわにする男性客もいた」らしい。そこに値上げが重なれば、客離れを招いて業績が悪化しそうな気もするが、高橋記者はその辺りにも触れようとしない。

最終段落では「『スターバックス株は正当な価格で成長すると信じている』(RBCキャピタル・マーケッツ)と市場の期待は大きい」といった具合で、前向きに記事を締めている。疲弊している現場に十分な人員を配置できないまま値上げに踏み切るのであれば、投資家としては不安が上回るのが普通ではないのか。

おそらく、手間をかけてまともな市場関連記事を書く気は高橋記者にはない。スタバの賃上げ・値上げに関して、高橋記者は夕刊にニュース記事も書いている。それを多重活用して、「ウォール街ラウンドアップ」を安直に仕上げたのだろう。そう考えると、完成度の低さも納得できる。

これは高橋記者の癖になっていると思える。猛省を促したい。

※記事の評価はD(問題あり)。暫定でDとしていた高橋里奈記者への評価はDで確定とする。高橋記者に関しては「市場分析は? 日経 高橋里奈記者『ウォール街ラウンドアップ』」も参照してほしい。

0 件のコメント:

コメントを投稿