記事の全文は以下の通り。
太宰府天満宮(福岡県太宰府市) ※写真と本文は無関係です |
【日経の記事】
米カリフォルニア州にユニークな航空会社がある。2013年にサービスを始めたサーフエア。月に2千ドルほど払うと、州内の主要地域を結ぶ路線が乗り放題になる。小型機12機で1日約90便。企業の幹部職ら3千人以上が、仕事やレジャーに利用する。
使い方は簡単だ。予約はスマートフォン(スマホ)で30秒あれば済む。空港ではコンシェルジュが出迎え、機内へといざなう。搭乗手続きの行列に並ぶ必要はない。「利便性と時間の節約をもたらす」。ジェフ・ポッター最高経営責任者(CEO)が語る。他州への進出も考えている。
一定額を払い会員になって利用する「サブスクリプション」と呼ぶサービスが業種の壁を越えて広がる。最近は映画や音楽の配信が人気を集めるが、定期的にひげそりの替え刃を届けるベンチャーなど新顔の登場が相次ぐ。会員なら使い放題という例も多い。
07年創業のZuora(ズオラ)は、この波に乗って成長をめざすシリコンバレーのIT(情報技術)会社だ。サブスクリプションサービスを手がける企業に、課金や会員分析などのシステムを提供する。
導入企業は800社。メディアや教育、ヘルスケアなど多岐にわたる。15年には日本法人をつくった。創業者のティエン・ツォCEOが話す。「これまで企業は製品の販売数を競ってきたが環境は変わった。問われるのは、どれくらい顧客を抱えられるかだ」
モノの所有からサービスの利用へ――。車を買わず、スマホアプリで車を呼ぶ人たちの急増が象徴するような、消費の新潮流が背景にある。モノを売るぶつ切りではなく、サービスで末永くつながる。そんな顧客との関係づくりが企業にとって大切になる。
米アマゾン・ドット・コムが05年に開始した会員制サービス「プライム」。米国の場合、年額99ドルで通販商品のスピード配達の利用や、娯楽コンテンツの視聴が好きなだけ可能になる。「しっかり者は会員になる」。ジェフ・ベゾスCEOの自信作だ。
ある調査によると、米国のプライム会員は、非会員よりアマゾンでの買い物金額が8割多い。顧客の懐に飛び込み、商機を膨らませる好循環が生まれている。会員は15年に前年比51%増え、高成長を支える。
翻って日本。燃費データの不正で窮地に陥った三菱自動車は生き残りのため日産自動車傘下に入る。顧客情報が流出し会員減少が続くベネッセホールディングスはトップが辞任する。「企業の目的は、顧客の創造である」。ピーター・ドラッカーの言葉を持ち出すまでもなく、経営の基本がなっていない。顧客の信頼なしに良い関係は築けない。
先週、米マイクロソフトのサティア・ナデラCEOが日本で講演し、こう予想した。「ボットによって、あらゆる製品、サービスと人間が話せるようになる」。ボットとは会話型の人工知能。何でもネットにつながるIoT時代には「接客係はボット」といった風景が当たり前になる。どう顧客と向き合うか。技術の進化も企業に再考を迫る。
顧客争奪の新たな戦い。もう幕は上がっている。
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「サブスクリプション」が「使い放題」なのかどうか村山編集委員は微妙な書き方をしているが、ここでは「使い放題」との前提で話を進める。
そもそも「会員制の使い放題」に、わざわざ記事で取り上げるほどの目新しさはあるのか。昔から世の中に溢れているのではないか。
遊園地の年間パスポート、野球場の年間予約席などは典型だ。記事では「月に2千ドルほど払うと、州内の主要地域を結ぶ路線が乗り放題になる」航空会社の話が出てくる。これは鉄道やバスの定期券と似たシステムだ。日経の電子版も「会員制の使い放題」だろう。有料会員になると電子版の記事が読み放題になる(記事検索は使い放題ではないが…)。
「一定額を払い会員になって利用する『サブスクリプション』と呼ぶサービスが業種の壁を越えて広がる」と村山編集委員は言うが、元から幅広い業種で見られる仕組みではないか。「業種の壁を越えて広がる」具体例も「サーフエア」ぐらいだ。「定期的にひげそりの替え刃を届けるベンチャー」は「使い放題」ではないだろう。
「モノの所有からサービスの利用へ」という話でもないだろう。記事の冒頭で紹介した「乗り放題」の航空会社もそうだ。航空サービスの利用法の変化に過ぎない。一部には「自家用ジェットを売却して」という人もいるかもしれないが、それだと記事で言うような「利便性と時間の節約」はもたらしそうもない。
「翻って日本」から話が脱線気味になるのも気になった。せめて日本での「会員制の使い放題」には触れてほしかった。「IoT時代には『接客係はボット』といった風景が当たり前になる」という辺りになると、「会員制の使い放題」との関連はほとんどなくなってしまう。そして最後は「顧客争奪の新たな戦い。もう幕は上がっている」と締めてしまう。
「顧客争奪の新たな戦い」というほどの話ではないし、「もう幕は上がっている」というより「幕はずっと前から上がったままだ」と言うべきだ。今回の記事は、全体に安易な作りだと思える。
※記事の評価はC(平均的)。村山恵一編集委員への評価はCを据え置くが、弱含みではある。
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