筑後川と耳納連山と夕陽(福岡県久留米市) ※写真と本文は無関係です |
自動車・空き部屋の貸し借りや、小口の資金調達などをインターネットで仲介する「シェアリングエコノミー」が世界中で急拡大している。IT(情報技術)発達で可能になった新ビジネスに、日本の法や規制が壁として立ちはだかる。企業活動や市民生活の効率化には、新たなルールをつくる工夫と決断が必要だ。
5月の週末、東京・丸の内で2人の男性が落ち合った。「キーを渡します」「長野までドライブします」。ディー・エヌ・エー(DeNA)のカーシェア仲介サービス「Anyca(エニカ)」に登録した車のオーナーと利用者。スマートフォン(スマホ)の専用アプリで直接交渉した。
2006年の道路運送法改正で自家用車の共同使用の許可制が撤廃、昨年9月に始まった。ただし法が認めるのは「非営利」。車の使用料が高すぎるとレンタカー事業とみられかねず、自由な値付けはできない。同社は「使用料を一定水準以下に設定するようオーナーにお願いしている」。
車のシェアはシェアエコノミーのけん引役だ。トヨタ自動車が資本・業務提携を決めた米ウーバーテクノロジーズはスマホで配車するライドシェア(相乗り)サービスを70カ国・地域で展開する。しかし日本では自家用車の有償運送は原則禁止。過疎地の特例事業が26日、京都府京丹後市で始まったにすぎない。
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疑問点を列挙してみる。
◎レンタカー事業と見られてしまうのは誰?
「車の使用料が高すぎるとレンタカー事業とみられかねず…」と書いている。だが、そう見られてしまうのが仲介サービスを手掛ける「DeNA」なのか「車のオーナー」なのかはっきりしない。ここでは「車のオーナー」が正解だと仮定して話を進めたい。
◎「非営利」でも貸す理由は?
車を貸すオーナーは「非営利」でなければならないと書いてある。ならば、貸している間に使われたガソリンの代金ぐらいしか請求できないのだろう。なのに見ず知らずの人に車を貸すオーナーの気が知れない。困っている人に慈善事業として貸すのなら、まだ分かるが…。一方、「使用料を一定水準以下に設定」してもそこそこ儲かるとすれば、それは「非営利」と言えるのかとの疑問が湧く。
◎規制は本当に厳しい?
日経トレンディネットの記事によると、「先代のダイハツ『コペン』を貸し出す29歳のオーナー」はエニカを使う際に「貸出価格は12時間で3200円、24時間でも4000円と割安にしている」らしい。ポルシェなどは12時間で1万円前後との情報もある。これだけの金額を受け取っても「非営利」としてお咎めなしならば、ビジネスを展開する上で実質的な影響はあまりない。オーナーがDeNAに10%の手数料を払ってでも車を貸し出そうとするのも納得できる。
「日本流規制が壁に」という結論ありきで記事を作っているから、こうなるのだろう。思い込みを排し、「本当に規制のしすぎなのか」「規制緩和を求める業者の言い分を鵜呑みにしていないか」と自問しながら取材をしてほしい。
ついでに拙い言葉の使い方を指摘しておきたい。
【日経の記事】
2006年の道路運送法改正で自家用車の共同使用の許可制が撤廃、昨年9月に始まった。ただし法が認めるのは「非営利」。
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「許可制が撤廃」は「許可制が撤廃され」の「され」を略したものだろう。受け身の場合、こういう略し方はしない方がいい。例えば「警官が逮捕され」を略して「警官が逮捕」としてしまうと「警官が逮捕した」との誤解が生じやすい。
さらに言えば、上記の文では「昨年9月に始まった」のが何なのかよく分からない。形式的に判断すれば「自家用車の共同使用の許可制」が「昨年9月に始まった」のだろう。しかし、2006年に「撤廃」されたはずなので辻褄が合わない。
文脈から判断すれば何となく分かるが、お世辞にもきちんと書けているとは言えない。以下に改善例を示しておく。
【改善例】
仲介を始めたのは昨年9月だ。自家用車の共同使用の許可制は2006年の道路運送法改正で撤廃になった。ただし法が認めるのは「非営利」。
※記事の評価はD(問題あり)。連載の(下)については「自分たちの知恵は出さない日経『シェアエコノミーとルール』」を参照してほしい。
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