2016年3月25日金曜日

最終回が残念な日経1面「働きかたNext~世界が問う」

日本経済新聞朝刊1面で5回にわたって連載した「働きかたNext~世界が問う」は、第4回まで問題なさそうに思えた。しかし、第5回の「転職『35歳』の壁壊す 職場再生へ動き出せ」が残念な出来だった。「世界が問う」というタイトルにもかかわらず、海外絡みでは外資系と見られる菓子店の話があるぐらいだ。「欧米やアジアと比べたデータがあるだろ」と取材班のメンバーは言いたいのかもしれないが、ちょっと弱すぎる。
金鱗湖(大分県由布市) ※写真と本文は無関係です

それ以上に気になったのが記事の中での「決め付け」だ。

【日経の記事】

(1)欧米に比べ人材流動化が進まない日本。転職を働き方を変える好機と捉える社会にできないか

(2)法政大学名誉教授の諏訪康雄(68)は「保守的だったミドルの転職を後押しすれば、日本全体が動き出す」と指摘する。働く6400万人が事情に応じて新たな働き方を自ら選ぶ。そんな社会を目指せば、日本の職場も再び輝く

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(1)が第1段落で(2)が最終段落だ。「日本社会=転職を働き方を変える好機と捉えない社会」との前提が取材班にはあるのだろう。捉える人と捉えない人がどの程度の比率で存在するのか確かなことは言えないが、「働き方を変える好機と捉える」人もかなりいるのは間違いない。前提の共有ができていないのに、まともな説明もなく「働き方を変える好機と捉える社会にできないか」と訴えられても困る。

結びの「そんな社会を目指せば、日本の職場も再び輝く」も同じだ。これは日経の1面企画にありがちな「取って付けたような結び」になっている。「日本の職場も再び輝く」と言うのだから、取材班には「日本の職場は輝いていない」との前提があるのだろう。その前提は読者と共有できているのか。「職場は輝いていない」と言える根拠を記事中で読者に提示しているとは思えない。

取材班は「働く6400万人が事情に応じて新たな働き方を自ら選ぶ」社会を目指せと訴える。だが、見方によっては既にそういう社会になっている。若年層の離職率の高さは社会問題になるほどだし、子育てが一段落してから労働時間の短いパートなどで働く女性も多い。もちろん企業の中途採用も当たり前にある。なのに「事情に応じて新たな働き方を自ら選ぶ」社会になっていないのは自明だと考えているのか。

記事には「リクルートによると日本の平均転職回数は0.87回。米国の1.16回はおろか、アジアでも最も少ない」との説明がある。「1.16回」だと「事情に応じて新たな働き方を自ら選ぶ」社会で、「0.87回」だとそうはならないのか。「0.87回」と「1.16回」にそんな決定的な違いはないだろう。

そもそも転職は多ければ多いほどいいのか。平均転職回数は「0.87回」よりも「1.16回」の方が望ましいのか。だとすれば、若者の離職率は高ければ高いほど良いのではないか。しかし、そう考える人は少数派だろう。

ついでに言うと、平均転職回数に関して「アジアでも最も少ない」との説明は感心しない。リクルートの2013年の調査によると、確かに調査対象となったアジア8カ国の中では日本の平均転職回数は最も少ないようだ。しかし、記事の書き方だと「アジアの全ての国の中で最低」と受け取れる。

また、調査の中には「最も少ないのが日本(0.87回)で、インドネシアの約半分である。ただし、いずれも1回前後と、大きな差とは言えない」とのコメントがある。その通りだろう。


※記事の評価はD(問題あり)。ただし、連載全体の評価はC(平均的)とする。連載の担当デスクと思われる宮東治彦氏への評価はDを据え置くが、強含みではある。宮東氏に関しては「日経 宮東治彦デスクへの助言 1面『働きかたNext』」を参照してほしい。

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