2016年3月7日月曜日

セブン&アイ鈴木敏文会長の責任質した東洋経済を評価

週刊東洋経済3月12日号に「直撃 セブン&アイホールディングス会長 鈴木敏文 ヨーカ堂社長辞任から健康問題まで 戸井君と話したこと 病床で考えたこと」というインタビュー記事(担当は又吉龍吾記者と堀川美行記者)が出ていた。週刊ダイヤモンド2月13日号の「鈴木セブン&アイ会長初激白! ヨーカ堂 社長交代の真相と改革の行方」に比べると東洋経済の方が圧倒的に出来が良かった。
太宰府天満宮(福岡県太宰府市) ※写真と本文は無関係です

ヨーカ堂の経営不振に関して鈴木氏自身の責任を問わなかったダイヤモンドに対して、東洋経済は「CEO(最高経営責任者)として会長自身の責任についてはどう考えていますか」と正面から斬り込んでいる。ここで言うCEOがセブン&アイCEOなのかヨーカ堂CEOなのか明示していないのは引っかかるが、それでも何も聞かないダイヤモンドよりは評価できる。

掲載時期から考えると、鈴木氏は両誌の取材を受ける時期を1カ月程度ずらしているのだろう。これは「ダイヤモンドのように優しいインタビュー記事にしないと、同じ時期に取材は受けないよ」との鈴木氏の警告とも解釈できる。仮にそうだとしても、東洋経済には今の姿勢を崩さないでほしい。

鈴木氏のインタビュー記事をまとめる上でのポイントは「ヨーカ堂の業績不振は自分のせいじゃない。自分以外の人間が悪いんだ」と訴える鈴木氏の経営者としての見苦しさを読者にうまく伝えられるかどうかだろう。その意味で今回の記事には合格点を与えられる。

記事の一部を見ていこう。

【東洋経済の記事】

--CEO(最高経営責任者)として会長自身の責任についてはどう考えていますか。

こっちも任命した責任は当然ある。しかし、CEOとして出した方針は間違っていない。

--CEOの進退を議論する話ではないということですか。

そうだよ。その証拠にセブンイレブンはどうか。同じ人間が具体的に「この商品を作れ、この商品を」と言っているのではなく、「こういう方針でやれ」ということを言っている。要するに業態は違っても言っていることは共通なんだよ。特にヨーカ堂の場合には、脱チェーンストアという理論を言ってきたが、脱チェーンストアになっていないのが影響している。

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ここでは「CEO=ヨーカ堂のCEO」という前提で考えてみたい。「ヨーカ堂の業績がどれだけ悪化しても、CEOとして出した方針が間違っていなければ責任を取る必要はない」という話が本当ならば、ヨーカ堂のCEOは永遠に責任を取らずに済む。例えば「消費者に支持される店を作って、消費者が必要とする商品を並べなさい。その上で経費を抑えて十分な利益率を確保する売り方をしていけば、きちんと利益が出せるはずです」とでも指示を出しておけば大丈夫だ。

この方針は間違っていないし、誰でも出せる。そして、うまくいかない場合はCEOの方針を守れない人間の責任になる。そんな都合のいい言い訳が企業経営で一般的に受け入れられるかどうかは少し考えれば分かるはずだ。しかし、セブン&アイの絶対的権力者である鈴木氏には、その辺りが見えなくなっているのだろう。

東洋経済のインタビュー記事では、鈴木氏の徹底した責任逃れ体質をうまく浮かび上がらせていた。特に以下のくだり(鈴木氏の発言部分)が印象に残った。

【東洋経済の記事】

だから、編集の人たちも批判できないよね。物まねのような記事を書くのではなくて、新しい現象を見つけて、それを記事にするのじゃなかったら、みんな買ってくれないよ。「そんなこと?」と思うでしょ。みなさんによくわかってもらえるように言うけど、今、何で雑誌の売れ行きが伸びないの? 一生懸命、書いて編集しているはずなのにね。

僕は(出版取次大手の)トーハンの経営にかかわっているから、雑誌のことは、よくわかっている。人のことは、みんな簡単に記事にできる。「なぜ変わらないんだ」と書くけど、自分でやってみたらいいよ。それは本当に難しいこと。付け加えると、本質をわかっている記事は読んでもらえるが、評論家の書いた記事は読まれないと言っておきたい。

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端的に言えば「自分たちだって雑誌が売れてないだろ。ヨーカ堂の経営がうまくいかないからって、こっちを批判するな」というのが鈴木氏の主張だ。そういう圧力をかけることがどれほど見苦しいか、鈴木氏には判断できないようだ。例えば開幕から最下位を独走しているプロ野球チームの監督が「メディだって経営はうまくいってないだろ。だから自分の采配を批判するような記事は書けないよな」と言い出したら、世の中の人は「なるほど」と受け止めてくれるだろうか。

最後に記事の書き方について細かい注文を付けておきたい。記事の冒頭での「同社」の使い方が気になった。

【東洋経済の記事】

セブン&アイ・ホールディングス(HD)に衝撃が走った。年明け早々、傘下のイトーヨーカ堂の戸井和久社長が就任から1年半で突如辞任し、前任の亀井淳顧問が社長に復帰した。昨年は物言う株主として知られる米ファンド、サード・ポイントが同社の株式を取得し、ヨーカ堂の分離を主張した。同社の行く末はどうなるのか。自身の健康問題を含め、鈴木敏文会長を直撃した。

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同社=記事中で直前に出てきた会社」という原則を守って記事を書いてほしい。上記の例では、最初の「同社」に直前で最も近いのが「サード・ポイント」で、その次が「イトーヨーカ堂」だが、筆者は「同社セブン&アイ」のつもりで書いているはずだ。

2つ目の「同社」も直前にあるのは「ヨーカ堂」だが、筆者は「同社=セブン&アイ」と言いたいのだろう。今回は実際に読んでいて「この『同社』はどの会社を指しているのかな」と迷ってしまった。


※記事の評価はB(優れている)。堀川美行記者への評価は暫定C(平均的)から暫定Bに引き上げる。又吉龍吾記者への評価は暫定でBとする。

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