2015年12月14日月曜日

フィンテックは「第4の革命」? 日経ビジネスの煽りを検証(1)

フィンテックに関する記事を最近よく目にする。どれを読んでも「フィンテックですごいことが起きそうだ」という気にはならないが、なぜだか記事の多くは「フィンテックで世の中が激変する」と訴えてくる。日経ビジネス12月14日号の特集「知らぬと損するフィンテック~もう銀行には頼らない」(26~43ページ)もその1つ。筆者(染原睦美、杉原淳一、飯山辰之介の3記者)は「それはまさに『革命』。農業革命、産業革命、IT革命に次ぐ第4の波だ」と煽ってくる。IT革命から次の革命までの間隔が短すぎる気はするし、そもそもフィンテックはIT革命の一部ではないかとも思うが、まあいい。本当に新たな「革命」が起きているのか、特集の中身から探ってみよう。

須佐能袁神社(福岡県久留米市) ※写真と本文は無関係です
【日経ビジネスの記事】

フィンテックという造語は聞いたことがある。「でも、それが何なのか分からない」という御仁も多いことだろう。例えば、魅力的なアイデアがあれば、手元資金がゼロでも起業できる。前年度の売り上げが赤字でも、昨日の売り上げが50万円あれば融資を受けられる。財務管理や決済手段にお金をかけずに済む。それを可能にするのがフィンテックだ。

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まず初歩的な問題を指摘をしておく。「売り上げが赤字」はおかしな表現だ。「損益が赤字」などと書いてほしい。

次にフィンテックが「革命」なのかを見ていこう。記事では「魅力的なアイデアがあれば、手元資金がゼロでも起業できる。前年度の売り上げが赤字でも、昨日の売り上げが50万円あれば融資を受けられる」とフィンテックのすごさを綴っている。

ただ、特集の中には、魅力的なアイデアを武器に手元資金ゼロで起業した人の話は出てこない。記事が取り上げたフィンテックはクラウドファンディングのことだ。時計店「Knot」を手掛ける会社がクラウドファンディングで資金を調達した話は出てくる。ただ、「新会社を設立して時計の試作品を作るまでにかかった数百万円は手元資金で賄った」とすれば、手元資金ゼロでの起業でないのは明らかだ。

「手元資金ゼロでの起業など無理」と訴えたいのではない。極端に言えば、誰でも手元資金ゼロで起業できる。例えば「便利屋を始めたので、何か頼みたいことがあったら言って」と知人に伝えれば事業は始まる。資金調達の面でクラウドファンディングは役に立つかもしれない。ただ、起業支援に関しては公的な融資制度もかなり整っている。フィンテックは資金調達の選択肢を増やすだろうが、起業に関して「革命」を起こしてはくれないだろう。

次に「前年度の売り上げが赤字でも、昨日の売り上げが50万円あれば融資を受けられる」ことの新規性はどうだろうか。これに関して「トランザクションレンディング~赤字でもお金が借りられる」という記事では以下のように述べている。

【日経ビジネスの記事】

ジャパンネット銀行から今年7月に借り入れたお金は70万円。ウェブ上の申し込みフォームに数項目の企業情報を入れただけで、2日後には「70万円を融資する」という通知があり、3日後には口座へ入金があった。

驚くのは、ゼロステーションが2014年まで赤字決算で、今年2月時点の売り上げが10万円だったことだ。融資を受けたおかげで売り上げは順調に推移。10月には300万円のローンを申請し、満額回答以上が返ってきた。11月には売り上げが400万円にまで拡大した。

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特集の冒頭で持ち出した「前年度の売り上げが赤字でも、昨日の売り上げが50万円」が上記のくだりでは「2014年まで赤字決算で、今年2月時点の売り上げが10万円」になっている理由はよく分からない。「今年2月時点の売り上げが10万円」という説明も「1~2月の売り上げ」なのか「2月の売り上げ」なのか判然としない。とは言え、この辺りの問題はここでは論じない。

赤字企業への融資はフィンテックなしには難しいかどうかを考えよう。例えば2014年6月29日の日経に載った「三井住友銀、赤字ベンチャーにも融資」という記事では以下のように説明している。

【日経の記事(2014年6月29日)】

三井住友銀行は7月から日本政策金融公庫と組み、ベンチャー企業に成長の初期段階から融資する。赤字が続いていたり、売上高がゼロだったりしても、有望な技術を持つ企業には共同で資金を出し、取引先も紹介する。創業間もない時期から成長を支援し、将来の融資拡大や新規株式公開(IPO)業務の受託につなげる。

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規模の小さい赤字企業が融資を受けにくいのは確かだろうが、融資を受けられないわけではないと上記の記事が教えてくれている。それをメガバンクのような既存の金融機関が手掛けているのだから、赤字企業がフィンテックを使って融資を受けたとしても驚くような話ではない。

ジャパンネット銀行の融資について「貸し倒れを防ぐために高利率にならざるをえない」と書いてあるのも気になった。これだと、中小企業の経営者が個人で消費者金融から借りるのと大きな差はない。結論として、「融資の分野でフィンテックが革命を起こしてくれる可能性は低い」と言わざるを得ない。

ついでに指摘しておくと、貸出金利を高くしても「貸し倒れを防ぐ」効果はないだろう。「貸し倒れを防ぐために高利率にならざるをえない」のではなく「貸し倒れに備えるために高利率にならざるをえない」のだと思うが…。

特集には他にも問題点があるが、長くなってきたので残りは(2)で述べる。

※(2)へ続く。

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