2015年12月7日月曜日

「103万円の壁」は税制の問題? 日経「税金考」への疑問(1)

6日の日本経済新聞朝刊1面に載った「税金考~試される政治(2)選挙のワナ 先送り誘発 再考の時」に解せない記述があった。配偶者控除に関する「103万円の壁」が人手不足を助長するような書き方をしているが、「103万円の壁」が税制上の障壁でないのは以前に「税金考」の中で自ら解説していたはずだ。自分たちが書いたことを忘れてしまったのだろうか。

まずは6日の記事から見てみよう。
大濠公園(福岡市中央区) ※写真と本文は無関係です

【日経の記事(12月6日)】

「また先送りですか」。保育事業大手、ポピンズの中村紀子最高経営責任者(CEO)が安倍政権に怒っている。年収103万円以下の専業主婦世帯などの税金を軽くする配偶者控除の見直し先送りが固まったためだ

パートで保育士として働く主婦は秋口になると「103万円の壁」を超えないよう労働時間を減らす。人手不足時代に弊害が大きい制度だ。「今年はやらないといけないよな。毎回先送りじゃ、やる気がないと思われる」。安倍晋三首相は春先にこう漏らし財務省は具体策の検討に着手した。

改革機運は半年ともたなかった。「あれは来年以降に先送りだ」。秋風が吹き始めた9月下旬。政府・与党幹部は今年末に決まる来年度税制改正大綱に配偶者控除の見直しが入らないと明かした。「配偶者控除を見直すと、選挙を手伝ってくれる50歳代の主婦の負担が増える。来年夏の参院選前にはできない」と閣僚の一人は解説する。

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103万円の壁」を超えると税負担が増えて手取り額が減ってしまうのならば上記の説明に違和感はない。しかし、6月1日の「税金考~『103万円の壁』、企業手当にも 専業主婦世帯優遇」という記事では以下のように解説している。

【日経の記事(6月1日)】

税金には社会の実情に合わせたさまざまな軽減制度がある。専業主婦世帯の税負担を軽くする「配偶者控除」はその代表例だ。

控除とは「差し引く」の意味だ。配偶者控除は年収が103万円以下の妻(夫)がいる場合、夫(妻)の所得から38万円を差し引く。所得が減る分、所得税率をかけて計算する税金も軽くなる。

逆に、103万円を超えたとたんに控除がなくなると、夫の税負担が急に重くなり夫婦合計の手取額が減る懸念が生じる。いわゆる103万円の壁だ。

実際には妻の年収が103万円を超えても141万円まで緩やかに控除額を減らしていく「配偶者特別控除」がある。例えば、年収が120万円の場合、夫の所得から差し引けるのは21万円。少しずつ控除枠が減るため、夫婦の収入が増えているのに手取りが減る逆転現象は生じない

だが、多くの企業は「妻の年収103万円まで」を基準に配偶者手当を支給している。そもそも、配偶者控除は専業主婦が多かった1960年代に出来た制度。共働きの夫婦が多数派になった今も、専業主婦世帯を優遇する仕組みが形を変えながら生き永らえているのが実態だ。

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6月1日の記事が正しければ、「パートで保育士として働く主婦は秋口になると『103万円の壁』を超えないよう労働時間を減らす」という事態は税制面からは生じない。企業の配偶者手当が絡む関係で「103万円の壁」を超えないように労働時間を調整するのは合理性があるが、これは税制とは別問題だ。

税制を見直せば配偶者手当の支給基準を見直す企業も出てくるかもしれない。そういう効果を前提にしているのであれば、12月6日の記事中でもきちんと説明すべきだろう。

記事には他にも問題がある。日経に問い合わせを送ったので、その内容と併せて(2)で言及したい。

※(2)へ続く。

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