2015年10月12日月曜日

東洋経済「絶望の非正規」で感心できない2本の記事(2)

東洋経済10月17日号の第1特集「絶望の非正規」の中の「女性活躍推進法は機能する? 妊娠後に6割が退職 マタハラ横行の悲劇」(74、75ページ)という記事について問題点を論じていく。全体的には、筆者である小林美希氏(労働経済ジャーナリスト)のマタハラに対する強い憤りが先行して、冷静な分析ができていない印象を受けた。まず気になったのが以下の説明だ。
福岡タワー(福岡市早良区) ※写真と本文は無関係です

【東洋経済の記事】

リーダー役の多田さんは妊娠中も不規則な生活を余儀なくされており、ある日、出血を伴う激しい腹痛に襲われた。「流産の危険がある」と上司に報告すると「だから女は当てにならない。何かあっても会社は責任を持てない」と退職勧奨を受け、辞めた。


上記のコメントでは「退職勧奨」とは言い切れない。流産に関して「会社は責任を持てない」と述べているだけだ。退職勧奨を受けたと断言するのならば、その根拠となるコメントを出すべきだ。この書き方だと「退職勧奨を受けたと主張できる根拠が実際にはないのでは?」と疑いたくなる。

データの扱いも雑だ。以下のくだりは解釈に迷った。


【東洋経済の記事】

医学的な妊娠適齢期といえる25~34歳の女性の非正規比率は約4割を占めており、育休取得の要件のハードルは高い。厚生労働省によると、非正規で育児休業給付金を受給した人は2014年度で9231人(全体の3.4%)しかいない。


全体の3.4%」というが、「全体」の範囲がはっきりしない。最初に読んだ時は「非正規で働く25~34歳の女性」「非正規で働く女性全体」のどちらかなと思った。しかし、それだと「3.4%」はそこそこ高い数字だ。なので「非正規で働く女性で14年度に出産した人」かもしれないと考え直した。「育休給付金を受給した人」が「全体」の対象の可能性もある。正解は分からないが、こうやって読者を迷わせている時点で、記事の書き方としては問題ありだ。

「3.4%」が少ないかどうかも微妙だ。女性の非正規雇用には主婦のパート・アルバイトも含まれるはずだ。そういった女性が妊娠した時に、育休を希望しているのかという問題がある。そこを考慮しないと、「3.4%」の持つ意味は判断できない。

ついでに言うと「非正規比率は約4割を占めており」という表現は不自然だ。「非正規比率は約4割に達しており」「25~34歳の女性の雇用形態は非正規が約4割を占めており」などとした方が良い。「育休取得の要件のハードルは高い」に関しても「要件のハードル」が引っかかる。「育休取得のハードルは高い」で十分ではないか。

記事には「言っていることが矛盾しているのでは」と思える記述もあった。


【東洋経済の記事】

初職が非正社員であれば転職にも不利に働き、ましてや妊娠・出産・育児期を迎えると、就業継続が困難になりやすい

こうした状況は少数精鋭の正社員でも同様だ。



正社員でも同様」ならば、非正規雇用に関して「妊娠・出産・育児期を迎えると、就業継続が困難になりやすい」と強調するのはおかしい。筆者の主張に従う場合、「非正規雇用だからといって、正規雇用に比べ妊娠・出産・育児期の就業継続が困難とは言えない」と考えるべきだろう。


※記事の評価はD(問題あり)。小林美希氏の評価も暫定でDとする。

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