2015年10月12日月曜日

東洋経済「絶望の非正規」で感心できない2本の記事(1)

東洋経済10月17日号の第1特集「絶望の非正規」は全体としては悪くなかったが、感心しない記事が2つあった。1つが「パートより待遇はいいが… 『週休3日制』『転勤なし』 限定正社員の内実」(80~82ページ)。もう1つが「女性活躍推進法は機能する? 妊娠後に6割が退職 マタハラ横行の悲劇」(74、75ページ)だ。まずは「限定正社員の内実」から疑問点を挙げていく。

ビューホテル平成(福岡県朝倉市)から見た筑後平野 
                 ※写真と本文は無関係です

◎これで地元に残れる?

【東洋経済の記事】

たとえば、地域運営会社の九州すき屋に所属すると、福岡県内のみか、九州全体で働くかのどちらかを選べる。地域正社員に2つの形態があるのは、働き手の希望が多岐にわたるからだ。

前者の場合は転勤範囲が狭いため、シングルマザーや子育てに従事する主婦層が多い。後者は都市圏で働きたくはなく地元に残りたいという新卒が目立つ


上記の説明は理解に苦しんだ。「都市圏で働きたくはなく地元に残りたいという新卒」がなぜ「九州全体で働く」を選ぶのだろうか。鹿児島出身の人が福岡にも熊本にも転勤するわけだから「地元に残りたい」との希望は叶いにくいだろう。「都市圏」がどこを指すかは不明だが、九州全体で働くのだから九州内の「都市圏」に勤務する可能性は十分ある。ひょっとすると「都市圏」は「三大都市圏」を指すのかもしれないが、記事からは何とも言えない。

すき屋に関しては、以下のくだりも納得できなかった。


◎「待遇面に大きな差がない」?

【東洋経済】

地域正社員は本部に勤める正社員と待遇面に大きな差がない給与はおおむね本部正社員の8割程度だが、役職手当や福利厚生は原則同一の内容となっている。


本部正社員より2割も給与が少ないのに「待遇面に大きな差がない」と言えるのだろうか。個人的には「大きな差がある」気がする。

気になったのは「すき屋」だけではない。


◎「限定正社員」はどうなった?

【東洋経済の記事】

一方、“全員正社員”を創業以来20年以上続けてきた同業アパレルがある。カジュアルファッション「アース ミュージック&エコロジー」を展開するクロスカンパニーだ。

同社の石川康晴社長は、全員正社員にした理由について「そもそもアパレル業界は非正規が多く、人材の流出が激しくて社内にノウハウがたまらなかった。将来を見ても人が集まりにくくなるのでは、というのがあった」と話す。

ただ、今年2月に方針を転換し、今後はパート・アルバイトを3割ぐらいの比率にしていくという。「専門学校生や短大生を中心にリサーチをかけると、正社員が怖いという声が多い。負担が重たいと。今の若い人たちの中には、1回会社を見てみたいというニーズがある」(石川社長)。来年には株式上場を予定しており、今後の積極出店を見据えた動きとの見方もある。

非正規か正社員か。雇う側も雇われる側も揺れている。


ユニクロに続いて出てくるのがクロスカンパニー。しかし、記事のテーマである「限定正社員」の話は出てこない。なのに、かなりの行数を割いている。これは苦しい。

この記事は全体として取材不足を感じた。


◎なぜ「限定正社員」の声がない?

限定正社員の内実」との見出しから、当然に「限定正社員がこの制度をどう受け止めているか」を取材しているのだろうと思って読んだ。しかし、それらしい話は出てこない。強いて言えば「これまでも、すき屋で働く契約社員からは『正社員になって安定した生活を送りたい』との声が上がっていた」というところか。しかし、これも契約社員に取材した感じではない。

1ページを丸々使っている「ユニクロ」のくだりぐらいは、地域正社員の声を入れてほしかった。会社に取材して制度の説明をするだけなら、仕事としては楽だろうが…。


※記事の評価はD(問題あり)。(2)では「マタハラ横行の悲劇」について論評する。

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