記事では、ファミリーマートとユニーグループ・ホールディングスの経営統合に関する合意が先送りとなったことを受け、三島由紀夫の小説「永すぎた春」を引き合いに出しながら、統合の行方を分析している。田中編集委員が記事中で紹介した関係者の思惑を列挙してみる。
【日経の記事】
アムステルダム(オランダ)のサルファティ公園 ※写真と本文は無関係です |
・おそらくフランチャイズ方式をとるファミマとサークルKサンクスの両方の本部はコンビニ事業が一体化することに積極的に違いない。統合推進派だろう。
・総合スーパー(GMS)のユニー。もともとは「サークルK」の生みの親だ。業績はいいとはいえない。今回の統合で飛躍のきっかけを作りたいと思っているようだが、統合協議の中で煮詰まっていないようだ。ファミマにはGMSを運営できるノウハウは乏しい。
・ファミマとサークスKサンクスの加盟店はどうだろうか。これまで競争相手だったのが統合が実現すれば仲間になる。隣接する店舗のオーナーの心境は複雑だ。ただ、サークルKサンクスのオーナーの中では今回の統合計画を歓迎する人も多いという。
・ファミマとユニーグループの大株主は伊藤忠商事だ。この経営統合の青写真を描いたのは伊藤忠と見られているから、何とかして縁談をまとめたいだろう。
・今回の統合交渉が明らかになる前にローソンはサークルKサンクスに「求愛していた」と語る関係者もいる。また、いまでも「ローソンはあきらめきれずにいるはず」と語る統合交渉の過程の一部を知る関係者もいる。
上記のような状況なのは分かった。それらを踏まえて、統合に至るのか破談に終わるのか、自分の見通しを語るのが田中編集委員の役割だ。記事のタイトルは「ファミマとユニーの統合交渉は『永すぎた春』か」となっている。見出しに釣られて読んだ人ならば、「日経の編集委員がこの件で自分なりの見通しを示してくれる」と期待するのが当然だ。しかし結局、「行方はいかに」で記事は終わる。これで済むなら仕事は楽だろう。
記事中には「統合交渉が『破談になる』とは筆者は思っていない」とも出てくる。そう感じているのならば、それが結論でいいのではないか。様々な要因を整理して「なぜ破談にはならないか」を説得力のある形で読者に示せば問題はない。
ところがそうはいかない。記事には「1度約束していた日程をズラしたことの意味は重い」「複雑な関係を解きほぐすのはたやすいことではない」と合意形成の難しさを語っているくだりもある。田中編集委員自身も「根拠はないが、何となく破談にはならないような気がする」といった程度の感触しかないのだろう。分からないのは仕方ない。ただ、「だったら、このテーマで記事を書くべきではない」とは助言したい。
ついでに細かい指摘をしておく。日経では、編集委員と呼ばれるベテラン記者でも記事を書く上での基礎的な技術が身に付いていない。その一例と言える。
◎「A社とB社を傘下に持つC社」と書いてあったら…
【日経の記事】
今年3月、都内のホテルでがっちり握手した、コンビニエンスストア3位のファミリーマートと同4位のサークルKサンクスを傘下に持つユニーグループ・ホールディングス(GHD)の首脳。経営統合に向けた華々しい会見だった。あれから半年が過ぎ8月をメドに経営統合の基本合意書を締結する予定だったが、先送りを決めた。
上記の書き方だと「ファミリーマートとサークルKサンクスを傘下に持つユニーグループ・ホールディングス(GHD)」となってしまい、ファミリーマートがユニーの傘下にあるように見えてしまう。ここは「ファミリーマートと、サークルKサンクスを傘下に持つユニーグループ・ホールディングス」と読点を使うなどして、誤解を招かないように記事を組み立てる必要がある。田中編集委員はこの程度のことができていないし、それを直してくれるデスクもいないようだ。
※問題の部分は「~の首脳」となっているので、話はもう少し複雑になるが、長くなるのでここでは説明を省く。
※記事の評価はD(問題あり)、田中陽編集委員への評価もDを据え置く。「日経 田中陽編集委員『お寒いガバナンス露呈』の寒い内容」も参照してほしい。
0 件のコメント:
コメントを投稿