ユトレヒト(オランダ)の運河 ※写真と本文は無関係です |
記事では以下のように説明している。
【日経の記事】
安定も知名度も興味なし。自分の腕を磨ける刺激的な場を求める。そんな「新エリート」が台頭する。新産業を生み出す彼らを企業はどう振り向かせるか。
「最先端のサイバー攻撃や防御策を試せる」。NTT系情報セキュリティー会社に昨秋転職した東内裕二(41)は今、満足げだ。きっかけは昨年8月に交流サイト(SNS)上で受け取った同社からの求人メッセージ。「ウチなら業務時間の半分は好きな研究に使っていい。楽しいよ」
東内はウェブサイト上でサイバー攻撃の隙を与える「穴」を見つけ出す分野で第一人者として知られる。学歴重視で年功序列の文化が残るNTTグループでは異例の一本釣りだが、担当したNTTコミュニケーションズの中島章博(40)は「今後、東内が推薦する人物がいれば最優先で採用する。経歴も学歴も問わない」と言い切る。
記事で取り上げた東内裕二氏が日経の言う「新エリート」かどうかは怪しい。東内氏がこれまでどこに勤務していたのか記事で触れていない点も気になる。例えば、東内氏が企業に属さず働いていた場合、NTT系企業への就職は「不安定より安定を選んだ」とも言える。
問題は東内氏の件だけではない。以下の事例も「新エリート候補」と呼ぶのは無理がある。
【日経の記事】
「物理学者になる夢が明確になった」。そう言って目を輝かせるパキスタンのハディージャ・ニアジ(14)はかつてなら埋もれていたかもしれない新エリート候補だ。10歳の時から米国の大規模公開オンライン講座(MOOC)を受講。大学レベルの物理学や数学など約25の講義を修めた。
物理学者になるのが夢ならば「安定も知名度も興味なしの新エリート」の候補とは言い難い。もちろん、「将来は考えが変わるかもしれない」「物理学者になれれば安定も知名度も関係ないと本人は思ってるんだ」といった弁明は可能だ。ただ、一般的には、物理学者を目指す若者がいても「安定も知名度も関係なく、将来の目標を立てているんだな」とは思わないはずだ。
そもそも、記事で最初に取り上げた松元叡一氏も「新エリート」と呼べるか疑問だ。
【日経の記事】
松元は高校時代にコンピュータープログラミングの国際大会で上位入賞を果たし、東大大学院を出た誰もが認めるエリート。自動運転など新産業を生み出す人工知能(AI)技術に精通するだけに将来の進路には様々な選択肢があったはずだ。それでも「日本の大企業には機械学習の有名人はいない」と断言、AI研究でトップ級の人材がそろうPFNに入った。
まず、東大大学院を出てベンチャー企業に入るのは「新」と付けるほど新しい動きなのか。それに、PFNに「AI研究でトップ級の人材がそろう」のであれば、その分野では高い知名度を誇るはずだ。そもそも「大企業には機械学習の有名人はいない」と考えてPENに入ったのであれば、機械学習の有名人に関しては「知名度」にかなり興味があるのだろう。
記事では「安定も知名度も興味なし。自分の腕を磨ける刺激的な場を求める。そんな『新エリート』が台頭する。新産業を生み出す彼らを企業はどう振り向かせるか」と書いている。しかし、東大を中退して起業した堀江貴文氏や、興銀を辞めて楽天を創業した三木谷浩史氏といった人は以前からいた。記事で言うような新規性の乏しい「新エリート」に「新」を付ける意味はないだろう。
あくまで推測だが、取材班が「安定も知名度も興味なしの新エリートが台頭してきている」という問題意識を持って取材を進めたとは思えない。記事に使えそうな事例を集める中で、「安定も知名度も興味なしの新エリートの話としてまとめられないか」と思い付いたのだろう。「問題意識よりもまず事例ありき」という形で記事を作る限り、今回のような苦しい内容になるのは必然だ。
そこに早く気付いてほしい。特に担当デスクの責任は重い。
※記事の評価はD(問題あり)。
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