2015年9月11日金曜日

悪くないが注文あり 日経 田口良成記者の「スクランブル」

11日の日経朝刊マーケット総合1面に載った「スクランブル~波乱は好機 動く個人  『株価変動率連動』に食指」は基本的に評価できる。取り上げたテーマも悪くないし、構成もしっかりしている。ただ、いくつか気になる点があった。

まず「連日の相場乱高下で長期投資家たちは動くに動けない様子」というのは、やや無理がある。筆者の田口良成記者は以下のように書いている。


◎相場乱高下だと「長期投資家は動けない」?

【日経の記事】
アントワープ(ベルギー)の公園に建つ像 ※写真と本文は無関係です

乱高下する相場を目の当たりにして、現物株運用を主体とする長期投資家はなかなか身動きが取れない

例えば、みずほ信託銀行が運用する3300億円規模の「動的ファンド」。市場の変動率などの指標に応じ、株式や債券など投資先を機動的に入れ替える。8月中旬以降、株価の変動率が高まったため、株式比率を3割弱から半減させている。運用を担当する佐藤秀晶氏は「市場に第2、第3の波がどう及ぶかまだ見えない。当面、株式の積み増しには慎重だ」と明かす。


動きが取れない例として、田口記者はみずほ信託銀行の「動的ファンド」を挙げている。変動率が高まると株式投資を控える方針ならば、株式の積み増しには慎重になるだろう。だからと言って、全体として「現物株運用を主体とする長期投資家はなかなか身動きが取れない」とは思えない。乱高下はむしろチャンスのはずだ。大きく下がって割安になったタイミングで現物株を買い、後は長期で保有すればいい。長期を前提に持つのだから、その後しばらく変動率が多少高くても気にする必要はないはずだ。

他にも理解できなかったくだりがある。


◎なぜ「先物の短期売買」だけは乗り切れる?


【日経の記事】

「今日は9日に上げすぎた反動。それでもここまで値動きが大きいとついていけない」。10日午後、大手証券の自己売買部門の担当者はこう言ってため息をついた。UBS証券ウェルス・マネジメント本部の中窪文男氏は「先物の短期売買でなければ乗り切れない相場だ」と話す。


なぜ「先物の短期売買でなければ乗り切れない相場」なのだろう。先物の短期売買では乗り切れるが現物株やETFの短期売買では乗り切れない理由を考えてみた。しかし、答えは浮かばなかった。「現物株は先物以上に値動きが荒い」と言いたいのかもしれないが、最近は指数先物でも十分に値動きが荒い。これを短期売買で乗り切れるのに、現物株やETFの売買では乗り切れないと言われてもピンと来ない。

市場関係者が実際にそう言っているのだから、的外れな話ではないのだろう。だとしても「なぜ先物の短期売買だけなのか」は説明してほしかった。

「VVIX」に関する説明も理解に苦しんだ。


◎VVIXは商品名?

【日経の記事】

米国株の予想変動率(VIX)先物指数に連動する上場投資信託(ETF)も同期間に8割上昇し、売買も急増した。ある大手金融機関は変動率に注目した取引は今後も盛り上がるとみて、VIの低下に賭ける商品の上場を検討し始めた。

世界的な相場変動率の上昇で、米国でにわかに注目され始めた商品があるVIXそのものの予想変動率を示す「VVIX」だ。VIXの上昇に備えるいわば保険商品の位置づけだ。変動率上昇による損失を避けようとするニーズが高まれば「保険料」が上昇する。

そのVVIXは8月下旬に過去最高を更新し、今も高水準で推移する。国内証券で計量分析を担当するアナリストは「それだけ投資家の心理が冷えているということだ」と指摘する。


記事の説明通りならば「VVIX」は商品名だ。しかし、VVIXは「VIXオプション取引のコストを示す指数」ではないのか。指数に連動する商品も当然あるのだろうが、だからと言って「米国でにわかに注目され始めた商品がある。VIXそのものの予想変動率を示す『VVIX』だ」と説明していいとは思えない。

「VVIX」をわざわざ取り上げる必要性も感じない。VIXとVVIXは基本的に連動するはずだし、記事に付けたグラフもそうなっている。ならばボラティリティーを語る上ではVIXに言及すれば事足りる。VVIXをあえて追加で見る必要があるならば、その理由を記事中で示してほしかった。

最後に結論部分にも注文を付けておこう。


◎「長期化を前提」となぜ言える?

みずほ証券の本山博史社長は「金融緩和を前提とした市場が逆回転している。新たな均衡点はまだみえない」と話す。だが不均衡にも必ず収益機会はある。したたかな個人たちは、荒れる相場の長期化を前提に市場と向き合い始めている


相場の変動率が上がり、個人投資家が変動率に連動する金融商品への投資意欲を高めているのは分かった。しかし「荒れる相場の長期化を前提に」しているかどうかは別だろう。なぜ「短期で勝負していない」と断定できるのか。値動きの良さに釣られて日経VI連動のETFに資金を移すような個人投資家ならば、短期での勝負を狙っていると考える方が自然だ。記事中で紹介した30代の男性投資家の「先物などより値ざやを得やすいからね」というコメントも、短期勝負を示唆しているように思える。


※決定的な問題はないので、記事の評価はC(平均的)とする。暫定でCとしていた田口良成記者への評価はCで確定させる。

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