2015年9月12日土曜日

次回は根本的な見直しを 日経1面「新産業創世記」

日経の苦しすぎる1面企画「新産業創世記~消える垣根」がようやく終わった。12日の最終回「(5)ライバルは『個人』  手づくり品も助言も売れる」も当然に苦しい。「ネットを使えば個人でも簡単に事業を始められる」といった10年以上前から言われているような話を持ってきて「新たな産業革命は始まっている」と結論付けらても説得力はない。

この手の話は紙面で繰り返し取り上げてきたはずだ。2015年に「新産業創世記」というタイトルで連載するのはなぜなのか。そこを詰め切れていないから、今回のような結果に終わってしまう。いずれ連載は再開するのだろう。その時は記事の作り方を根本的に改めてほしい。

12日の記事について問題点を指摘していこう。まずは以下の記述から。


【日経の記事】
オランダのユトレヒト市街 ※写真と本文は無関係です

東京都葛飾区にある一軒家の3階。双子姉妹の早川博子(48)と山本順子(同)が談笑しながら雑貨をつくっている。ごく普通の主婦のようだが、実はこの2人、手づくり雑貨の世界では知る人ぞ知るスター作家だ。

活動の舞台は雑貨の個人売買を仲介するサイト「ミンネ」だ。子供部屋だったアトリエには素材や工具が所狭しと並ぶ。

売れっ子になったのはひょんなきっかけだ。早川が友達に贈る手づくりの小物を、ものは試しと登録した。しばらくは注文ゼロだったが、ネットの書き込みで評判が一気に広がり「急に売れて驚いた」。月収は100万円に上ることもある。

ネット企業のGMOペパボ(東京・渋谷)が運営するミンネには14万人もの「作家」が158万点を出品する。4~6月の取引額は10億円弱と、前年同期の4倍だ。

ソーシャルメディアの普及で個人がビジネスを格段にしやすくなった。扱うのはモノに限らない。


まず「友達に贈る手づくりの小物を、ものは試しと登録した」のは解せない。「もし売れなかったら、その時は仕方がないから友達にでも贈るか」と考えていたのだろうか。友達に対して失礼な話ではある。「友達に贈ったものと同じ作りの小物」を登録したのかもしれないが、そうは書いていない。

記事には「SNSが追い風」という小見出しが付いている。しかし、本文に「SNS」の文字は見当たらない。「ソーシャルメディアの普及で個人がビジネスを格段にしやすくなった」とは書いてあるものの、「ソーシャルメディア=SNS」ではないはずだ。

そもそも「ライバルは『個人』」というテーマに意味が感じられない。上記の双子姉妹が会社を設立すれば「ライバルは法人」になってしまう。法人化した上でフリーで仕事をしている人も珍しくないのに「個人」と「法人」を分けてもあまり意味はない。

さらに言えば「ライバルは『個人』」なのは、昔からある話だ。大手外食チェーンは個人営業の飲食店と競合関係にある。大手の学習塾は個人がやっている学習塾がライバルになり得る。昔よりライバルになりやすくなっているとしても、「新たな産業革命」と呼ぶほどのことなのか。

最後に、言葉の使い方で1つ注文を付けておこう。


【日経の記事】

だが、個人が企業のライバルになる動きは止まらない。野村総合研究所の上級コンサルタント、冨田勝己(40)は断言する。「個人がサービスを提供する手間とコストが低くなり、既存のビジネスは変革を迫られる」


手間とコストが低くなり」が気になる。「コスト」は低くなるが「手間が低くなる」とは言わないだろう。


※5回の連載に対する評価はD(問題あり)。取材班を代表して、担当デスクだと思われる菅原透氏の評価を暫定でDとする。今回の連載に関しては「初回から無理がある1面企画 日経『新産業創世記』」「早くも破綻状態? 日経『新産業創世記』取材班への助言」も参照してほしい。

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