2015年7月1日水曜日

リバランスは年1回? 日経 田村正之編集委員に問う

日経の田村正之編集委員は新聞記事での説明が苦手らしい。以前に記事の問題点を指摘すると「自分はFPの資格も持っているからそんなことは分かっている。行数の関係で十分に説明ができなかっただけだ」と弁明していた記憶がある。その時も問題になったのは日経朝刊のマネー&インベストメント面の記事だった。

200行はありそうな記事で「スペースが足りない」という言い訳に説得力は感じられなかったが、当時の田村編集委員は「行数制限のない電子版の記事ではきちんと説明している」と主張していた。1日付の「投資『リバランス』の効用」という記事でも、きちんとした説明は最初から諦めているのだろうか。

今回、引っかかったのは以下の記述だ。


【日経の記事】


オランダのマーストリヒト ※写真と本文は無関係です
リバランスの手法は主に2つある。1年ごとなど定期的に実施する方法と、基本とする配分比率から実際の配分比率が一定以上乖離したときに実施する方法だ。注目したいのは、どちらにせよ、あまり小刻みにやらない方が成績が向上しやすいことだ(図C)。

例えば毎月よりは1年、あるいは3年ごとの方がリターンは上がりやすい。同様に5%乖離でするよりは10%乖離でする方が成績はいい。「小刻みなリバランスは相場の流れに乗る効果が薄れる」(三菱UFJ国際投信の水野善公ネット・ETF推進部長)

個人投資家は例えば年に1度、誕生日や正月などに資産を見直すといった方法がよさそうだ。株高局面では「いったん全部売ろうか」などと迷うが、リバランスの考え方を知れば一時的な感情に惑わされずにすむ。基本の配分比率に戻すため一部だけを売ればいい。


記事によると、リバランスは小刻みにやらない方がいいらしい。「毎月よりは1年、あるいは3年ごとの方がリターンは上がりやすい」と書いてある。グラフを見ると確かに毎月より1年、1年より3年の方がリターンは高い。ならば、個人投資家は「年に1度、誕生日や正月などに資産を見直す」より、3年に1回の方がよいのではないか。しかし、なぜか田村編集委員は「年に1度」を薦めている。そもそも、グラフを見ると「3年」より「5年」の方がリターンは落ちているので、見直しの頻度とリターンの関係がきちんと成り立っているのか怪しい面はある。

本来の比率からの乖離が大きかろうが小さかろうが、年1回はリバランスするという考え方にも賛成できない。経済評論家の山崎元氏は「ほったらかし投資術」という本で以下のように記している。田村編集委員も参考にしてほしい。


【「ほったらかし投資術」の記事】

「定期的な」リバランスに何か優れた意味があるわけではありません。放置しておくとポートフォリオのバランスが狂うことがあるので、これを修正することに意味がありますが、それは市場に大きな変化(たとえば国内株式と外国株式のパフォーマンスの大きなずれ)があった時にそうなるのであって、それが定期的に起きるとは限りません。少し意地悪な言い方をすると、「1年に1度リバランスする」というのは、投資家の側の都合であって、それが運用的にも正しいタイミングだろうというのは、投資家側のご都合主義です。1年に1度決まった日に、まして投資家の誕生日に、投資上重要な変化が起こっていると考えるのは天動説を信じるような(自己中心的な)考え方です。


田村編集委員の「5%乖離でするよりは10%乖離でする方が成績はいい」という説明も気になる。グラフを見ると、この2つはリスクもリターンもほぼ同じだ。わずかな差はあるのだろうが「10%乖離でする方が成績はいい」と言えるほどではない。

そもそも乖離幅を大きく持たせた方が成績が良くなるとすれば、リバランスの必要性はあまりなさそうだ。例えば10%乖離でするより50%乖離でする方が高いリターンが期待できるとしよう。そうすると、長期にわたって投資しても、1度もリバランスの必要な局面がないことも十分あり得る。これで成績が良くなるのならば、リバランスをすれば「長期的に成績の向上につながりやすい」という田村編集委員の主張とあまり整合しない。

他にも気になる点を見ていこう。


◎買い増しならコストがかからない?

【日経の記事】

売却すると税負担や売買コストが発生することがある。リバランスは売却が不可欠ではなく、比率の下がった資産を買い増すことでも可能。毎月定額を積立投資している個人投資家rennyさん(ハンドルネーム、42)は「積立投資の際に比率が下がった資産を多く買うことで、元の比率に近づける」と話す。


売却すると税負担や売買コストが発生することがある」と書いて、「買い増しでもリバランスはできる」と解説すると、買い増しなら売買コストは発生しないような印象を受ける。実際は買いでもコストがかかるはずだ。


◎結果論では?

【日経の記事】

大事なのは決めたルールをきちんと守ること」と格付投資情報センターで企業年金のコンサルティングをする川村孝之フェローは指摘する。例えば金融危機後の09年。株価がさらに下げるとの懸念から多くの企業年金は「こんな時期に株は買えない」としてリバランスをためらった。「きちんとリバランスしなかった企業年金はその後の株価回復局面についていけなかった」(川村さん)


間違ったことは書いていないが、こういう結果論で「ルールを守ることが大事」と説くのは感心しない。金融危機後の株価低迷が今も続いていたら、リバランスの回避は吉と出たはずだ。その場合、「機械的にリバランスするのではなく、きちんと状況判断をして方針変更をためらわないことが重要」という結論も導き出せる。


最後に…

200行の前後の行数があって、グラフを3つも付けられるのであれば、「スペースが足りないのできちんと説明できない」との言い訳は通用しない。「ちゃんと説明するのは無理」と投げ出さず、「俺なら200行できっちり説明してみせる」との気概を持って記事を書いてほしい。

※記事の評価はD(問題あり)。田村編集委員への評価は期待も込めてC(平均的)を維持する。

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