2015年7月1日水曜日

日経 大林尚編集委員への疑問(3) 「景気指標」について

大林尚編集委員は年金分野の記事を書いていた時に問題のある記述が目立っていた。1年半ほど前の2013年12月10日の朝刊に載った「景気指標:アベノミクスと消費税増税」(景気指標面)を題材に見てみよう。

ブリュッセル(ベルギー)の聖ミッシェル大聖堂
               ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

さて14年4月からの落ち込みはどの程度か。大手企業の多くが人件費を増やす方向に傾いているのは、反動減をおさえる支援材料になる。年金生活者にとっては、消費者物価が上がった分が年金額に上乗せされるので、その是非はともかく増税の影響はかぎられる



「増税で物価が上がっても、上昇分だけ年金が増えるから増税の影響は限られる」との説明には無理がある。2014年度の年金額は13年の物価上昇率を基に決まるので、増税で14年4月から物価が上がっても、14年度の年金額には反映されない。むしろ特例水準調整のための年金減額が13年10月に続いて14年4月にも実施されることになっていたので、14年度の年金額は名目でも減る可能性が高かった。

年金額が減る中での増税となりそうなのに、なぜか大林編集委員は「年金生活者にとっては、消費者物価が上がった分が年金額に上乗せされるので、その是非はともかく増税の影響はかぎられる」と書いてしまった。

大林編集委員には記事の掲載直後にメールで以下のように説明した。


【大林編集委員に送ったメールの内容】

2013年の物価上昇率をゼロと仮定すると(実際もこれに近いでしょう)、来年4月から公的年金は特例水準調整の影響で1%減額となります。そうであれば、増税による物価上昇の影響を年金生活者ももろに受けます。14年の物価上昇は15年度の年金額に反映されますが、一定以上の物価上昇率となった場合はマクロ経済スライドの発動に伴い物価上昇率を下回る年金増額になるようです。15年度以降に関しても「消費者物価が上がった分が年金額に上乗せされる」とは限らないでしょう。


これ以外にも記事の問題点をメールで3つ指摘した。まず気になったのは平仮名の多さだ。


【日経の記事】 ※カッコ内は漢字表記した方が良さそうな言葉

ボーナスをふくめた給与水準     (含めた)

3カ月半後にせまった          (迫った)

振り子が大きくふれる          (振れる)

資産効果があらわれている      (表れる)

上昇をたもっている           (保っている)

3四半期つづけて増えた        (続けて)

クルマの購入をふくむ自動車関係費 (含む)

影響はかぎられる            (限られる)

反動減をおさえる             (抑える)


大林編集委員には「中学生でも書けそうな簡単な漢字を使わずにあえて平仮名表記する意味はあるのでしょうか? 文字数は増えるし、読みやすくもありません」と伝えた。

以下のくだりでは「資産効果」の説明が引っかかった。


【日経の記事】

アベノミクスによる資産効果があらわれているのは食関連だ。総務省の家計調査(2人以上の世帯の7~9月期平均値、以下同じ)によると、牛肉の平均購入単価は2012年10~12月期から丸1年間、上昇をたもっている。外食と飲酒への実質支出はいずれも1~3月期から3四半期つづけて増えた。


食関連で資産効果が表れている」という説明が怪しい。「アベノミクスによる資産効果」と言っても、株価が高くなった程度で、不動産価格などは大して上がっていなかった。そもそも「食関連の消費」は資産価格との連動性が低いとされる分野だ。資産効果がゼロとは言わないが、「資産効果が主な要因となって食関連消費が伸びている」とは思えない。


記事の結論部分も感心しない書き方になっていた。


【日経の記事】

さて14年4月からの落ち込みはどの程度か。大手企業の多くが人件費を増やす方向に傾いているのは、反動減をおさえる支援材料になる。年金生活者にとっては、消費者物価が上がった分が年金額に上乗せされるので、その是非はともかく増税の影響はかぎられる。そもそも税率の上げ幅に物価がフルに連動するわけでもない。消費税増税というイベントを売り手がどう小さくみせるかも、個人消費の帰趨(きすう)を左右する。


さて、14年4月からの落ち込みはどの程度か」と筆者自ら切り出しておきながら、「どの程度の落ち込みになるか」に触れないまま終わっている。「具体的な数値を示せ」とは言わないが、「景気を失速させるほどの落ち込みにはならないだろう」ぐらいの見解は欲しい。それができないのならば、編集委員が署名入りで書く必要はない。

記事の問題点を指摘したメールに対して、筆者から反応はなかった。この記事に限らず、大林編集委員は年金関連で基本知識の欠如をさらけ出す印象が強い。そうした点も考慮して、書き手としての評価はE(大いに問題あり)としている。

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