「戦力逐次投入」については、以下のように解説している。
デュッセルドルフ(ドイツ)の観覧車 ※写真と本文は無関係です |
【日経の記事】
昨年6月、オバマ氏はISが首都バグダッドに迫ったことを受け、イラク兵訓練のため米軍事顧問団を300人派遣すると表明した。誤算だったのは戦力の「逐次投入」(野党・共和党のマケイン上院軍事委員長)を迫られたことだ。
オバマ氏は昨年8月に空爆を始め、同11月には米兵1500人の増派を決定。今回の増派で3550人規模となる。マケイン氏は逐次投入について「包括的戦略がない」と批判し、数千人規模の米地上部隊を派兵するよう主張する。
「逐次投入を迫られた」と川合記者は書いているが、オバマ政権は「米軍の地上部隊を大規模に投入して一気にイスラム国を攻撃したい」と希望していたのだろうか。記事にもあるように「イラク兵への軍事支援でイスラム国を掃討する方針」のはずだ。外部から見れば米国のやり方は「逐次投入」に見えるかもしれない。しかし、「逐次投入はしたくなかったのに、結果的に逐次投入になってしまった」という「誤算」はなさそうに感じる。仮に誤算があるのならば、それが読者に分かるように書くべきだ。
ついでに言うと、マケイン氏の主張は謎だ。逐次投入を批判する人物として記事に登場するが、なぜか追加で数千人規模の地上部隊の派兵を主張している。これまでの戦力投入に加えて数千人規模の地上部隊の派兵となれば、これまた戦力の逐次投入だ。この書き方では、マケイン氏がおかしな人に見える。実際は「包括的な戦略がないまま逐次投入している」と批判しているだけであって、「包括的な戦略さえあれば、逐次投入でもいい」との考えではないか。あくまで想像だが…。川合記者には、この辺りも分かりやすく書いてほしかった。
もう1つ、「宗派対立」に関する誤算も見ていこう。
【日経の記事】
第3の誤算は宗派対立だ。イラクのアバディ首相はイラク治安部隊の大敗を受け、イスラム教シーア派民兵に協力を求めた。ただアンバル州はスンニ派住民が多く、ラマディを奪還してもシーア派民兵と対立しかねない。
シーア派を国教とするイランが民兵を支援しているとされ、イランの影響力強化を懸念する米国は民兵投入に慎重だ。米は今回の増派でまずスンニ派部族から兵士を勧誘し、イラク治安部隊との仲立ちをする考えだが、実際の任務開始は「6~8週間後」(米国防総省)。スンニ派勢力の訓練が終わり実戦投入できる時期は当面見通せない。
これも記事からは何が誤算か読み取れない。シーア派とスンニ派の対立は中東政策を考える上で当然に米国も知っているはずだ。だから「まさか宗派対立があるとは…」というレベルの誤算は生じない。記事で言う「スンニ派部族から勧誘した兵士の任務開始」が「6~8週間後」になるのも、誤算かどうかは判然としない。「実戦投入できる時期は当面見通せない」という記述から、状況の厳しさは伝わってくるものの、計算が狂ったかどうかの説明はない。それにスンニ派兵士の投入時期で誤算が生じているのならば、「誤算」は「宗派対立」というより「現地での兵士育成」だろう。
※記事への評価はD。川合智之記者への評価もD(暫定)とする。
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