【日経の社説】
ロッテルダム(オランダ)のキューブハウス ※写真と本文は無関係です |
そして今、日本を取り巻く安全保障環境はたしかに大きく変化している。北朝鮮はいつ暴発するか分からない。
中国の台頭で米国を軸とする国際社会の力の均衡が崩れたことも見逃せない。尖閣諸島の領有権をめぐる摩擦にとどまらない。中国の海軍力の増強、南シナ海での埋め立ては日本のシーレーン(海上交通路)に影響を及ぼさないのだろうか。かりにあの空域で中国が防空識別圏を設定すればいったいどうなるのだろうか。
「9条の定める理想は理想として尊重するが、現実には、その時々の情勢判断によって、保有する軍備の水準、同盟を組む相手国等を、それらが全体として日本を危険にするか安全にするか、安全にするとしてもいかなるコストにおいてかなどを勘案しながら決定していくしかない」(長谷部恭男著『憲法』)。その通りである。
社説の主張を簡単にまとめると、「憲法でどう定めていようと、それは横に置いておいて現実に即した最善の策を取っていくべきだ」といったところか。さすがに、ストレートな表現を用いるのがためらわれたようで、記事ではかなり回りくどい書き方をしている。長谷部恭男氏の著作を引用した上で「その通りである」と結んでいるのも、「自分たちだけじゃない。『憲法なんか横に置いておけ』と主張をしている識者はちゃんといるんだ」と訴えたかったからだろう。
「法治国家」とか「法の支配」といった要素を重視する場合、「憲法違反の疑いが濃い政策変更を目指すならば、安部政権はまず憲法改正に取り組め」とでも主張するはずだ。そこに関しては「本来であれば、憲法を改正して対応するのがいちばんいいのに、それができない」と完全に諦めているようだ。なので、あっさりと「法の支配」を否定して、「現実優先」を選んだらしい。
日経の考え方を全面的には否定しない。ただ、主張の整合性は取ってほしい。例えば「タイ政治はクーデターで立て直せるのか」 という社説(2014年5月24日付)で日経は 「政治の混迷が続いていたタイで軍がクーデターに踏み切った。経済や社会にまで混乱が広がっていたとはいえ、民主主義と法の支配を損なう行動は残念だ」と訴えた。しかし、今後は日経に「法の支配を損なう行動は残念だ」など主張する資格はない。日経の考えに従えば、タイの場合も「法の定める理想は尊重するが、現実にはその時々の情勢判断に応じて、どういう統治形態であればタイを平和で望ましい方向に導いていけるかを勘案した上で軍も行動するしかない」と言えるはずだ。
この社説には、他にも気になる部分があった。それについては(2)で述べる。
(つづく)
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