12日の日本経済新聞朝刊1面に福山絵里子記者が書いた「生涯子供なし、日本突出~50歳女性の27% 『結婚困難』が増加」という記事は、目の付け所こそ悪くないが高い評価はできない。データの解釈が恣意的だからだ。「生涯無子」について福山記者は以下のように書いている。
宮島 |
【日経の記事】
人口学では、女性で50歳時点で子どもがいない場合を「生涯無子」(チャイルドレス)と見る。OECDによると、70年生まれの女性の場合、日本は27%。比較可能なデータがある17カ国のうちで最も高い。次いで高いのはフィンランド(20.7%)で、オーストリア、スペインと続く。ドイツはOECDのデータにないが、ドイツ政府の統計によると21%(69年生まれ)だった。
24カ国で比較できる65年生まれでも日本(22.1%)が最も高く、英国、米国など主要国を上回る。両立支援などの政策が進んだ西欧諸国では子を持たない人の増加の勢いが収まっており、日本は後れをとっている。
◎「西欧諸国」とはどの国のこと?
「両立支援などの政策が進んだ西欧諸国では子を持たない人の増加の勢いが収まっており、日本は後れをとっている」と福山記者は言うが、それを裏付ける具体的なデータは見当たらない。記事に付けたグラフでは増加組が日本、フィンランド、英国、ドイツ、スペインで「増加の勢いが収まって」いるのが米国とスウェーデン。この両国は「西欧諸国」ではない(スウェーデンを北欧ではなく「西欧」と見なしても1カ国では「諸国」にならない)。そして「西欧」に当たるドイツ、スペインでは増加傾向。話が違う。
そして「生涯無子」を減らす策に関しても福山記者はおかしな主張を展開する。
【日経の記事】
近年大きく増えたのは(1)の結婚困難型だ。25歳から49歳までのどの年代(5歳刻み)を見ても最多だった。十分な経済力がある適切な相手を見つけることができないことも一因とみられる。次に多かったのは(2)の無子志向で、若い世代で増えた。女性全体の中で5%程度が無子志向と推察した。
未婚女性では低収入や交際相手がいないと子を望まない確率が高かった。守泉氏は「積極的選択というより、諦めている女性が多いと示唆される」と話す。
岸田政権は子育て世帯への経済的支援を充実する見通しだ。非正規社員への社会保障の拡充や男女ともに育児との両立が可能な働き方へ向けた改革も必要となる。子育てのハードルを下げるため教育費の軽減も急務だ。
日本では86年に男女雇用機会均等法が施行された。無子率が高い65年~70年生まれは均等法第一世代だ。働く女性が増えたものの両立支援は進まず、退職して出産か子どもを持たずに働くかの選択を迫られる傾向が続き、少子化が進んだ。
◎「両立支援」に効果ある?
「働く女性が増えたものの両立支援は進まず、退職して出産か子どもを持たずに働くかの選択を迫られる傾向が続き、少子化が進んだ」と福山記者は言う。「両立支援」が十分ならば「少子化が進んだ」りしないと思い込んでいるようだ。となるとフィンランドで「生涯無子」の比率が高く、しかも増加傾向にあるのをどう説明するのか。日経は2021年の記事で「教育や福祉が充実、育児休業を取得する男性が8割以上いるなど、共働き子育ての先進国」と同国を紹介している。なのに出生率は日本とほぼ同水準。「共働き子育ての先進国」になっても少子化克服は難しいことをフィンランドは教えてくれる。むしろ「共働き子育ての先進国」だからこそ少子化を克服できないと見る方が自然だ。
個人的には少子化は放置で良いと思うが、どうしても克服したいならば学ぶべきは「西欧諸国」でも北欧でもない。人口置換水準を大きく上回る国々だ。世界には、そうした国がたくさんある。そこから目を背けたままでは、この問題で説得力のある答えは出せない。
※今回取り上げた記事「生涯子供なし、日本突出~50歳女性の27% 『結婚困難』が増加」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230112&ng=DGKKZO67498650R10C23A1MM8000
※記事の評価はD(問題あり)。福山絵里子記者への評価もDとする。福山記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。
読者に誤解与える日経 福山絵里子記者「子育て世代『時間貧困』」https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/08/blog-post_21.html
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