2022年12月5日月曜日

「国と国の戦争」を「過去の遺物」と思い込んでいた日経 芹川洋一論説フェロー

日本経済新聞の芹川洋一論説フェローが5日の朝刊オピニオン面に書いた「核心~令和の国難に防人の備え」という記事には色々と問題を感じた。中身を見ながら具体的に指摘していく。

【日経の記事】

2022年も余すところわずかとなった。世界の歴史で特筆大書される年になるにちがいない。いうまでもなく2月24日にはじまったロシアのウクライナ侵攻のためだ。

国と国の戦争という過去の遺物と思われていたものが9カ月すぎてもなおつづいている。国際政治は権力闘争で、それを左右するものが軍事力という現実もまざまざとみせつけた。国際政治学者モーゲンソーのいうとおりだ。


◎「過去の遺物」と思ってた?

国と国の戦争」を「過去の遺物」だと芹川氏は思っていたのか。だとしたら怖い。2021年には中国とインドが軍事衝突を起こしている。それがなくても台湾有事で米国が中国と直接戦うのかが論じられてきた。そういう状況で「国と国の戦争」を「過去の遺物」と認識したのならば引退を検討していい。

台湾有事に関する記述にも疑問を感じた。


【日経の記事】

ただもし台湾有事になればどうなるのかを想定、さまざまな対策を詰めておく必要がある。尖閣諸島や与那国島など南西諸島が戦域に入るのは必至で、そうなるとおのずと日本有事になるためだ。


◎なぜ「戦域に入るのは必至」?

台湾有事」では「南西諸島が戦域に入るのは必至」と芹川氏は言うが、その理由は記していない。中国からすれば台湾を攻撃する際に「南西諸島」も「戦域」に入れる可能性は低いだろう。台湾への攻撃だけであれば「あくまで国内問題」と中国は主張できるが「南西諸島」にまで「戦域」を広げてしまうと日米参戦に正当性を与えてしまう。

日本にとって一番悩ましいのは、中国が台湾だけを攻めている状況で親分である米国が中国との開戦を決意し、日本にも子分として参戦を求めてくる場合だ。日米同盟の強化を念仏のように唱えてきた日経の論説委員長経験者としては「その時は米国と距離を置け」とは言いづらいのだろう。しかし「日本が攻められていなくても米国が求めるなら子分として参戦を拒めない」と言うのも苦しい。なので「台湾有事」では「南西諸島が戦域に入るのは必至」とご都合主義的に決め付けたのではないか。

「台湾有事の際に米国が参戦を求めてきたら、日本が攻撃されていなくても米国と共に中国と戦うべきなのか?」

この問いに芹川氏は答えてほしい。「本社コメンテーター」の秋田浩之氏と同様にこの問題から逃げ続けるのならば安全保障上の問題を論じる書き手としては評価できない。

記事ではこの後「白村江の戦い」「蒙古襲来」など歴史のおさらいが続き以下のような結論に至る。


【日経の記事】

古代の防人、中世の御家人、明治の人びと……先人たちは涙ぐましい努力でふんばった。令和の国難に必要なものもまた、それぞれの立場で負担を受け入れる覚悟と気概のはずだ。そして国難を回避するための政治指導者たちの力量だ。今の日本は果たして大丈夫だろうか。

◎そこを語らないと…

芹川氏は「今の日本は果たして大丈夫だろうか」で記事を締めてしまう。「大丈夫」かどうか自らの見解を示した上で「大丈夫」でないのならば、どういう政策を選択すべきか読者に訴えるべきだ。

日本の歴史を振りかえると、似たような状況の時代があったように思い、本社の論説委員会の本棚にあった山川出版社の高校教科書の『詳説日本史B』を手に取ってみた」といった余計な説明は要らないし歴史に触れた部分も長すぎる。「今の日本」が具体的に何をすべきかを論じることに紙幅を割いてほしかった。

「防衛力強化のために今こそ大増税を」でもいい。具体論からなぜ逃げるのか。

ついでに言うと芹川氏の文章は相変わらず平仮名だらけで読みづらい。

例えば「9カ月すぎてもなおつづいている」は「9カ月過ぎてもなお続いている」の方が読みやすい。使っている漢字もごく簡単なものだ。ずっとそうだが芹川氏はなぜこんなに平仮名好きなのか。

紛争がおこる」「バランスがくずれた」「年内決着にむけて」「ふたたび敗退」「城をきずいた」…。平仮名表記を選ぶ理由が理解できない。


※今回取り上げた記事「核心~令和の国難に防人の備え

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221205&ng=DGKKZO66495060S2A201C2TCS000


※記事の評価はD(問題あり)。芹川洋一氏への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。芹川氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「核で抑止」日本はOKで北朝鮮はNG? 日経 芹川洋一論説フェローに問うhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2022/05/okng.html

昔話の長さに芹川洋一論説フェローの限界が透ける日経「核心~令和臨調、3度目の挑戦」https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/03/3.html

日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_50.html

日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_98.html

日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_51.html

日経の芹川洋一論説委員長は「裸の王様」? (1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_15.html

日経の芹川洋一論説委員長は「裸の王様」? (2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_16.html

「株価連動政権」? 日経 芹川洋一論説委員長の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_31.html

日経 芹川洋一論説委員長 「災後」記事の苦しい中身(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_12.html

日経 芹川洋一論説委員長 「災後」記事の苦しい中身(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_13.html

日経 芹川洋一論説主幹 「新聞礼讃」に見える驕り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_33.html

「若者ほど保守志向」と日経 芹川洋一論説主幹は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_39.html

ソ連参戦は「8月15日」? 日経 芹川洋一論説主幹に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/815.html

日経1面の解説記事をいつまで芹川洋一論説主幹に…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_29.html

「回転ドアで政治家の質向上」? 日経 芹川洋一論説主幹に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_21.html

「改憲は急がば回れ」に根拠が乏しい日経 芹川洋一論説主幹
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_29.html

論説フェローになっても苦しい日経 芹川洋一氏の「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_24.html

データ分析が苦手過ぎる日経 芹川洋一論説フェロー
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_77.html

「政権の求心力維持」が最重要? 日経 芹川洋一論説フェローに問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_79.html

「野党侮れず」が強引な日経 芹川洋一 論説フェローの「核心」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_18.html

「スペイン風邪」の話が生きてない日経 芹川洋一論説フェロー「核心」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/blog-post_27.html

日経 芹川洋一論説フェローが森喜朗氏に甘いのは過去の「貸し借り」ゆえ?https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/02/blog-post_11.html

日本の首相に任期あり? 菅首相は安倍政権ナンバー2? 日経 芹川洋一論説フェローに問うhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2021/09/2.html

1 件のコメント:

  1. これは誤植です。誤「今の日本は果たして大丈夫だろうか」→正「今の日経は果たして大丈夫だろうか」

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