「最悪のシナリオ」を想定する大切さを説く人が「最悪のシナリオ」を想定できていないというケースをたまに目にする。ジャーナリストの富坂聰氏もその1人のようだ。
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週刊東洋経済6月11日号の「中国動態~中台衝突で最悪のシナリオとは何か」という記事で「台湾有事を念頭に日本では軍拡論が勢いを増す。だが最悪シナリオをどこまで考えているのか」と富坂氏は心配している。だが、そういう本人も「最悪のシナリオ」をきちんと「考えている」ようには見えない。
記事の終盤を見ていこう。
【東洋経済の記事】
考えなければならないのは、中台の極めて強い経済的結び付きだ。経済依存関係が戦争を妨げるという単純な話ではない。経済依存があるからこそ、中国は経済で台湾を干上がらせることができる。当然中国も返り血を浴びるが、戦争をするくらいなら十分、選択肢となる。中国が輸入しないのではなく、中国から物が来なくなる恐怖を台湾が味わうことになる。
それ以前に日本が考慮すべきは、台湾の内政の変化だ。中国からの独立を掲げる蔡英文政権も反中機運も永遠とは限らない。
安全保障が最悪を想定するものなら台湾統一は視野に入れなければならない。そのとき、いま台湾が爆買いしている米国の兵器が、中国の管理下に置かれる可能性も考えておかねばならない。
ほんの少し視野を広げただけでも、敵基地攻撃だけを考えればよいという話ではないことは明らかだ。
◎で「最悪のシナリオ」は?
記事はこれで終わりだ。「中台衝突で最悪のシナリオとは何か」と見出しで打ち出し、冒頭で「最悪シナリオをどこまで考えているのか」と問うたものの、何が「最悪のシナリオ」なのかは明確にならない。
「安全保障が最悪を想定するものなら台湾統一は視野に入れなければならない」と書いているので「台湾統一」によって「国の兵器が、中国の管理下に置かれる」ことが日本にとっての「最悪のシナリオ」という話かもしれない。だとしたら「最悪」には程遠い。
「中台衝突」に介入する形で日米が参戦して完敗を喫し、日本は中国による核攻撃で国民のほとんどが死んでしまい中国に占領されるーー。この辺りが「最悪のシナリオ」だろう。
そこまで考える能力がないのか、分かっているが書きたくないのか。いずれにしても富坂氏には問題がある。
ついでにいくつかツッコミを入れておきたい。
まず「経済依存があるからこそ、中国は経済で台湾を干上がらせることができる」とは思えない。「中台衝突」で米国が軍事介入するかどうかは怪しいが「戦争」となれば米国などからの経済援助は期待できるだろう。個人的には「中国は経済で台湾を干上がらせることができ」ないと見ている。
次は「蔡英文政権も反中機運も永遠とは限らない」との記述について。「永遠とは限らない」と書くと「永遠」の可能性もあると取れる。しかし「蔡英文」氏は人間なので「蔡英文政権」が「永遠」でないのは自明だ。
あと、たまに見る「台湾統一」という表現は引っかかる。分裂状態の「台湾」が1つにまとまるのならば「台湾統一」でいいだろう。しかし中国との一体化を「台湾統一」と言うのはおかしい。
「台湾併合」「中台統一」などとしてほしい。
※今回取り上げた記事「中国動態~中台衝突で最悪のシナリオとは何か」
※記事の評価はD(問題あり)
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