新聞社に「社論を変えるな」とは言わない。しかし、大きな情勢変化もないのに短期間で主張が変わってしまうと、信用はなくなる。11日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「エネ制裁は供給安定を前提で」という社説はまさにそうだ。まずはロシアによるウクライナ侵攻が始まった直後の2月25日の「世界はロシアの暴挙を許さない」という社説を振り返ろう。
夕暮れ時の大刀洗町 |
【日経の社説(2月25日)】
世界はいま、冷戦後最大の危機の淵に立たされていると認識すべきだ。国連を含め国際社会はロシアを止めるため団結するときだ。
その意味で米国、欧州、日本など主要国が機密情報を共有し、制裁強化で足並みをそろえているのは心強い。
日本の役割は重大だ。日本は北方領土問題を解決し、平和条約を締結すべくロシアと長年にわたって交渉を続けてきた。他国の主権を侵害するような国と交渉を進める環境ではなくなった。いまは米欧と結束して、ロシアに部隊撤収を迫る強い姿勢を示していくことこそが、国益にかなう道だ。
ロシアは天然ガス、石油などの輸出大国であり、制裁する側も大きな影響を受ける。とはいえ、ためらっている猶予はない。多くの国が制裁の輪に加わるよう主要国は努力してほしい。
◎わずか半月で勢いが…
「米国、欧州、日本など主要国が機密情報を共有し、制裁強化で足並みをそろえているのは心強い」「米欧と結束して、ロシアに部隊撤収を迫る強い姿勢を示していくことこそが、国益にかなう道だ」「ロシアは天然ガス、石油などの輸出大国であり、制裁する側も大きな影響を受ける。とはいえ、ためらっている猶予はない。多くの国が制裁の輪に加わるよう主要国は努力してほしい」とかなり強く経済制裁を求めている。日本経済への悪影響も覚悟している。しかし半月経つとすっかり勢いがなくなってしまう。
【日経の社説(3月11日)】
米国がロシア産の石油や天然ガスの輸入を禁じた。英国も年末までに原油の輸入をやめる。
ロシアからのエネルギー供給が滞れば、需給逼迫や価格高騰などの影響が世界に及ぶ。しかし、エネルギー産業はプーチン大統領の力の源泉である。ウクライナで続く暴虐に圧力をかけるにはそこに切り込むことがやむを得ない。
ただし、ロシアへの依存度を考えると、簡単に同調できない国も少なくない。日本もその一つだ。供給の安定を最優先としながら、連携を探るべきだ。
◎変わり過ぎでは?
「制裁強化で足並みをそろえているのは心強い」「米欧と結束して、ロシアに部隊撤収を迫る強い姿勢を示していくことこそが、国益にかなう道だ」と訴えていたのに早くも「簡単に同調できない国も少なくない。日本もその一つだ」となってしまう。
「米国がロシア産の石油や天然ガスの輸入を禁じた。英国も年末までに原油の輸入をやめる」のならば、日本も同調して「強い姿勢を示していくことこそが、国益にかなう」のではないのか。「制裁する側も大きな影響を受ける」と覚悟していたのではないのか。
米国が「一緒に禁輸しなくてもいいよ」と理解を示してくれると日経も一気に腰が引けたということか。
「供給の安定を最優先」と考えるのならば「ためらっている猶予はない。多くの国が制裁の輪に加わるよう主要国は努力してほしい」などと訴えたのが間違いだった。
弱気に転じた日経の主張をもう少し見ていこう。
【日経の社説(3月11日)】
日本は原油の約4%、液化天然ガス(LNG)の約8%をロシアから輸入する。重要なのはロシアの収入に打撃を与えることだ。自らの経済を混乱させては元も子もない。ロシアとの原油・LNG取引を精査したうえで、減らせるところは協力を考えるべきだ。
◎意味不明では?
「重要なのはロシアの収入に打撃を与えることだ。自らの経済を混乱させては元も子もない」という説明は、厳しく言えば意味不明だ。日本経済が「混乱」すると「ロシアの収入に打撃を与えること」ができないという関係が成り立つならば分かる。しかし、そうではない。日本経済の「混乱」と引き換えに「ロシアの収入に打撃を与える」可能性も十分にある。「多くの国が制裁の輪に加わる」場合は、可能性がさらに高まる。
だからこそ「ためらっている猶予はない。多くの国が制裁の輪に加わるよう主要国は努力してほしい」と2月24日の社説では訴えたはずだ。
半月が経過して「ためらっている猶予」ができたのか。違うはずだ。早すぎる変節は読者の信頼を損ねる。弱気に出るなら、最初から弱気でいてほしい。
※今回取り上げた社説「エネ制裁は供給安定を前提で」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220311&ng=DGKKZO58988420R10C22A3EA1000
※社説の評価はD(問題あり)
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