25日の日本経済新聞朝刊 投資情報面に関口慶太記者(肩書はフィンテックエディター)が書いた「一目均衡~市場を壊す『3月期』の呪縛」という記事には色々と疑問が湧いた。中身を見ながら具体的に指摘したい。
室見川 |
【日経の記事】
「1カ月で30社超の新規株式公開(IPO)は多すぎる。これが続くとマーケットを壊しかねない」。auカブコム証券の前社長で、現在はミンカブ・ジ・インフォノイド副社長の斎藤正勝氏は17日、東京証券取引所を訪れ、山道裕己社長に訴えた。
2021年12月のIPOは34社(東京プロマーケット含む)。1991年以来、30年ぶりの高水準となった。年間の4分の1が1カ月に集中した。12月24日は1日だけで7社が上場した。
個人マネーが中心の新興市場は、IPOの集中を支えきれずに、初値が公開価格を下回る銘柄が続出した。資金回転の効かなくなった市場はもろい。東証マザーズ指数は21年12月に8%下落。22年1月はさらに18%下落している。
◎「資金回転が効かなくなった」?
まず「IPOの集中を支えきれずに、初値が公開価格を下回る銘柄が続出した。資金回転の効かなくなった市場はもろい」という説明が謎だ。
「初値が公開価格を下回る銘柄が続出」することが「資金回転の効かなくなった」根拠と言えるのか。「資金回転」の定義にもよるが、売買がきちんと成立しているのならば「資金回転」は効いているのではないか。
「東証マザーズ指数は21年12月に8%下落」したらしいが、これを「IPOの集中」と単純に結び付けているのも引っかかる。因果関係を証明できないのは分かる。それでも「IPOの集中」が指数の下落につながったと見る市場関係者のコメントぐらいは欲しい。
「22年1月はさらに18%下落している」とも書いている。これはさすがに苦しい。12月に「IPOの集中」が起きたので12月の株価が下がったという話はまだ分かる。翌月に2倍以上の下落率となったのならば別の要因と見るべきだ。翌月になった改めて「IPOの集中」を株価に織り込むとは考えにくい。
続きを見ていこう。
【日経の記事】
一極集中の悪影響は明らかなのに12月に集中するのはなぜか。IPOの主幹事を務める大手証券会社の幹部は「上場後の下方修正を避けるためだ」と明かす。「3月期決算だと、4~9月の上半期の結果が出た秋に上場申請すれば、年間計画がぶれる可能性が低くなる」というわけだ。
上場する企業や主幹事証券がIPO直後の下方修正を過度に恐れるきっかけになったのが、2015年のgumiショックだ。
14年に東証1部に上場したgumiは、上場からわずか2カ月半後に大幅な下方修正を発表した。株価はストップ安となり、日本取引所グループの斉藤惇最高経営責任者(当時)は「3カ月で営業黒字から赤字にするのは、経営者としてありえない」と批判。主幹事証券にも怒りの矛先を向けた。
15年3月に東証と日本取引所自主規制法人は日本公認会計士協会に対し「新規公開の品質向上に向けた対応のお願い」と題する要請をした。上場直後に業績予想を大幅修正する場合には前提条件やその根拠の適切な開示をするよう求めた。東証の永田秀俊上場推進部長は「主幹事証券や監査法人は、東証は上場直後の下方修正は認めないと受け止めたのではないか」とみる。
12月と違い、1月はほとんどIPOがない。1月でも年間計画は見通せるはずだが、1月の上場には準備の問題がある。12月のクリスマスの時期は国内外の機関投資家が休暇に入る。IPOに向けて機関投資家を回って事業や財務の説明をするロードショーができないのが、1月に上場する企業が少ない理由だ。
◎2月はなぜ少ない?
IPOが「12月に集中する」のは「上場後の下方修正を避けるため」らしい。「1月でも年間計画は見通せるはず」だが、「12月のクリスマスの時期は国内外の機関投資家が休暇に入る」から「1月に上場する企業が少ない」らしい。「クリスマスの時期」に休むと言っても数日の話ではないかと思える。「ロードショーができない」という説明を受け入るとしても、だったら2月はなぜダメなのかとの疑問は残る。
記事の終盤も見ておく。
【日経の記事】
解決策はある。決算期をずらすことだ。例えば12月期決算ならば、9~10月に年間計画が見通せる。3月期決算企業は東証1部の約7割。日本公認会計士協会などは20年3月、公認会計士を見つけられない監査難民を解消するためにも「決算期を異なる時期とすることが期待される」とする報告書をまとめている。
IPOの増加はリスクマネーの供給を増やそうと官民挙げて取り組んだ成果だ。ただ結果として生じたマーケット需給の悪化は放置できない。企業も証券会社もまずは3月期決算の呪縛から解き放たれてみてはどうだろうか。
◎どうやって「ずらす」?
「解決策はある。決算期をずらすことだ」と関口記者は言うが具体策には触れていない。「企業も証券会社もまずは3月期決算の呪縛から解き放たれてみてはどうだろうか」と呼び掛けているだけだ。「3月期決算」以外の企業の上場申請を優先して審査する仕組みに改めるとか、何か策を提言してほしい。
個人的には12月に「IPOの集中」が起きても「市場を壊す」ようなことはないと思える。百歩譲って12月に「マーケット需給の悪化」が起きるとしよう。これは「放置」でいい。
そもそも「マーケット需給」が緩むことを単純に「悪化」とは見るべきなのか。結果として株価が下がっても、押し目を拾いたい人にとっては好機だ。
そもそも企業の株価は、中長期で見れば企業価値に見合ったものになるのではないか。「IPOの集中」の影響で本来の価値よりも大幅に低い水準で初値が付いた企業があるとしよう。割安な株価でこの企業に投資したいと考える投資家にとっては絶好の買い場だ。そうやって株価は修正されていく。一時的な「需給の悪化」による株価の変動を気にする必要はない。
12月に「IPOの集中」が起きているということは、裏返せば他の月の「IPO」は少ない訳だ。これは「マーケット需給」の“改善”要因となる。結局、集中させても分散させても年間ベースでの「IPO」による株式の新規供給は同じなのだから12月の「マーケット需給の悪化」は他の月の“改善”で相殺されるはずだ。
関口記者は「ミンカブ・ジ・インフォノイド副社長の斎藤正勝氏」に上手く丸め込まれたのだろうか。ここで書いたような話は「フィンテックエディター」というもっともらしい肩書を付けて日経に株式関連の記事を書く記者ならば、当然に理解しているべきなのだが…。
※今回取り上げた記事「一目均衡~市場を壊す『3月期』の呪縛」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220125&ng=DGKKZO79505890U2A120C2DTA000
※記事の評価はD(問題あり)。関口慶太記者への評価はDを維持する。関口記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。
疑問だらけの日経「本田圭佑選手、VBファンド設立」https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_19.html
「お金のデザイン」が好きすぎる日経「市場の力学」https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/02/blog-post_53.html
逆張り消えた?日経 関口慶太記者「スクランブル」に疑問(1)https://kagehidehiko.blogspot.com/2015/09/blog-post_26.html
逆張り消えた?日経 関口慶太記者「スクランブル」に疑問(2)https://kagehidehiko.blogspot.com/2015/09/blog-post_27.html
0 件のコメント:
コメントを投稿