夕暮れ時の筑後川 |
【小林氏の発言】
矢野さん(財務次官)がイメージする「財政破綻」とは、国の借金が膨らみ続けることで日本国債の格付けが下がり、金利が暴騰してハイパーインフレを招くシナリオだと思いますが、その懸念は私も共有するところではあります。
◎「国家財政破綻=ハイパーインフレ」?
まず「矢野さんがイメージする『財政破綻』」を「ハイパーインフレ」だと勝手に推測しているのが引っかかる。今回の記事には「矢野論文」のポイントが載っていて「このままバラマキを続けて、国の借金がさらに膨らみ続ければ、国家財政はいずれ破綻する」となっている。「国家財政」の「破綻」を「ハイパーインフレ」と読み取るのは、かなり強引だ。
百歩譲って小林氏の言う通りだとして、なぜ矢野氏は「国の借金がさらに膨らみ続ければ、いずれハイパーインフレが起きる」と訴えなかったのかとの疑問も残る。
次に移ろう。「中央銀行は通貨を創造できる存在なので、国債を買い支えられなくなるなんてことは起き得ません」と言う中野氏に対して小林氏は以下のように反論する。
【小林氏の発言】
いや、「今はない」だけです。将来にわたって「絶対に起きない」とは言い切れません。
私は矢野論文の背景にあるのは、「将来世代にツケを残してはいけない」ということだと思うんです。国債は将来世代からの前借りで、いずれその金は返さなきゃいけない。これまでのように日銀が買い支えられるうちはいいけど、もし将来において例えば制御できないようなインフレが起きたら、将来世代への大きな負担を残すことになる。それは避けたいという矢野さんの思いは否定すべきではないでしょう。
◎色々と違うような…
「将来にわたって『絶対に起きない』とは言い切れません」というのは厳密に言えば正しい。例えば、金本位制に復帰する可能性も考慮すれば「国債を買い支えられなくなる」事態もあり得る。
問題は「日銀が日本円を無限に創出できる」という条件下で「国債を買い支えられなくなる」ことがあるのかだ。あるならば、どういう事態を想定しているのか。「日銀が日本円を無限に創出できる」との前提を共有していないそれでもいい。しかし、そうした説明は見当たらない。
しかも対談の別のところで「『日本は自国通貨建てなのでデフォルトは起きない』というのは、国債を発行すれば最後は日銀が買うことが可能ですから、確かにその通りです」と小林氏自身が述べている。ここでは、なぜか「(日銀が)国債を買い支えられなくなる」事態を想定していない。矛盾を感じる。
「国債」発行について「将来世代にツケを残してはいけない」から抑えるべきだとの主張も基本的に違うと思える。日本国債の発行残高が1000億円だとしよう(簡略化のため、保有者は日本国民のみとする。金利は無視する)。この残高を維持したまま、保有者全員が死亡し「将来世代」の時代が来たらどうなるか。
「将来世代」が運営する政府は、前の世代が作った国債1000億円を償還する必要がある。一方、「将来世代」は前の世代から相続した国債の償還によって1000億円を受け取る。「将来世代」は「ツケ」を払わされているだろうか。小林氏にも、よく考えてほしい。
「将来において例えば制御できないようなインフレが起きたら、将来世代への大きな負担を残すことになる」という説明はさらに謎だ。上記の例で考えてみよう。現状では都心の高級マンションの価格が1億円だとする。これを基に「インフレ」を考える。
「制御できないようなインフレ」が起きて物価が1000倍になったとしよう。そうするとマンションの価格も1000億円になる。しかし国債の残高は1000億円のままだ。
「制御できないようなインフレ」前にはマンションの1000倍の国債を抱えていた。しかし「インフレ」後はマンション価格と同じレベルにまで下がっている。この状態で現役世代が全員死亡して「将来世代」の時代を迎えるとしよう。その時に「将来世代への大きな負担を残すことになる」だろうか。負債に限れば「負担」は軽くなるとも言える。資産としての価値が目減りするので、そこも考慮する必要はあるが「インフレ」によって将来世代の「負担」が大きく増えるとは考えにくい。
小林氏はひょっとすると「将来世代」の時代が来てから「制御できないようなインフレ」に陥ると想定しているのだろうか。その時は「将来世代」が現役世代だ。世代交代してしばらくしてから突然「インフレ」になったからと言って、前の世代の責任なのか。
前の世代から引き継いだ国債が急に「制御できないようなインフレ」を引き起こすというメカニズムも謎だ。
小林氏には別の機会にぜひ謎を解いてほしい。解けるならだが…。
※今回取り上げた記事「激突!バラマキか否か『矢野論文』」
※記事の評価はC(平均的)
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