2021年8月3日火曜日

「無理ゲー社会」で橘玲氏が指摘したMMTの弱点は違うような…

今回も橘玲氏の「無理ゲー社会」という本を取り上げたい。その中で引っかかったのがMMT(現代貨幣理論)に関する記述だ。「この理論の当否は本書では立ち入らない」と橘氏は言うが、その後の内容を見るとMMTに懐疑的なのが分かる。

夕暮れ時の筑後川

まず違うと思えたのが「『増税なしの財政拡張』を唱えるMMTは『そんなことをすれば財政が破綻して年金制度が崩壊する』という批判に極めて脆弱」との説明だ。

MMTは『主権通貨を発行する政府は破産し得ない』とし、アメリカや日本のような主権通貨を持つ国は、(インフレになるまで)無制限に財政を拡張できると主張する」と橘氏も書いている。つまり単純に「増税なしの財政拡張」を唱えている訳ではない。インフレを抑えるためには増税も選択肢になる。なので「『増税なしの財政拡張』を唱えるMMT」という説明は舌足らずだ。

では「増税なしの財政拡張」を続ける前提であれば、「財政が破綻して年金制度が崩壊する」という批判にMMTは「極めて脆弱」と言えるだろうか。

日本は「主権通貨を持つ国」だから、MMTの立場からは「財政が破綻して年金制度が崩壊する」心配は要らないという結論になる。

日本円を創出しているのは政府・日銀だ。金本位制ではないので裏付けとなる資産は必要ないし、創出規模に限界はない。「主権通貨を持つ国」は外貨建ての政府債務に縛られていないので、自国通貨を創出して自国通貨建ての債務を簡単に返済できる。

財政が破綻」しないとしてもハイパーインフレになるのではと心配する向きもあるかもしれない。政府がMMTに基づいて政策を実行するならば、その心配も要らない。MMTはインフレを問題視する。繰り返しになるが、どんな時も「増税なしの財政拡張」を求める訳ではない。インフレを抑えるためには増税や財政支出削減もありとの立場だ。

橘氏の説明とは逆に「『インフレにならない限り増税なしの財政拡張を進めても良い』とするMMTは『そんなことをすれば財政が破綻して年金制度が崩壊する』という批判にも簡単に反論できる」と見るべきではないか。橘氏にはそこも考えてほしい。


※今回取り上げた本「無理ゲー社会


※本の評価はB(優れている)

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