2021年8月13日金曜日

「男女格差を解消しても少子化克服は無理」と教えてくれる日経のFT翻訳記事

13日の日本経済新聞朝刊オピニオン面にエンプロイメント・コラムニストのサラ・オコナー氏が書いた「FINANCIAL TIMES~『日本化』する世界人口」という記事は興味深い。日経で女性問題を担当する記者にはぜひ読んでほしい。特に参考にしてほしいのが以下のくだりだ。

夕暮れ時の筑後川

【日経の記事】

いずれにせよ、我々が先進国の出生率を人口置換水準にまで回復させたいと考えても、それは無理かもしれない。

フィンランドは仕事と育児を両立できるよう様々な政策を実施しているが、出生率はいまだに置換水準の2.1をはるかに下回ったままだ。フィンランドの人口研究所のアンナ・ロトキルヒ研究教授はこう話す。

「16歳未満の子どもを持つ親たちがどのように仕事と家庭を両立させているかを調査したところ、最大の問題はどうしたら興味深い調査報告を書けるかだった。というのも、誰もが現状に非常に満足していたからだ」

そしてこう続けた。「これまで、真の男女平等を実現できれば出生率は上がるという期待があった。ところが、両親が共に働き、キャリアを追求しつつ家庭を築けるようになっても、平均出生率は1.5程度にしかならなそうなことが判明した。ただ、人々がそれで満足しているのであれば、この出生率の低さは果たして問題視すべきなのか、ということだ


◎「欧州を見習え」パターンはもうやめよう!

日経で女性問題を扱う記事には大きな流れがある。「男女格差を少なくすれば出生率が上向く。だから男女格差の小さい欧州(よく出てくるのは出生率が比較的高いフランスやスウェーデン)を見習おう」などと訴えるのが、よくあるパターンだ。

男女格差を少なくしても少子化問題は克服できないーー。欧州の動向からはそう読み取れる。「フィンランドは仕事と育児を両立できるよう様々な政策を実施しているが、出生率はいまだに置換水準の2.1をはるかに下回ったままだ」「我々が先進国の出生率を人口置換水準にまで回復させたいと考えても、それは無理かもしれない」というオコナー氏の見方は基本的に正しい。

では、なぜ女性問題を扱う筆者の多くが、強引に男女格差と少子化問題を結び付けてしまうのか。推測だが、「男女格差を解消したい」という強い動機を持った人が記事を書いているのではないか。

故に「男女格差の解消には大きなメリットがある(男女格差の放置には大きなデメリットがある)」というストーリーを描きたくなる。その時に思い付きやすいのが少子化問題なのだろう。こういう人は「男女格差を小さくすれば出生率が上向くというデータがないか」と探してしまう。しかし都合のいいデータはない。なので、強引にデータを解釈してしまう。

男女格差の縮小を訴える人が大好きなのがジェンダーギャップ指数だ。フィンランドはこの指数で2021年に2位になっており、男女格差の小ささは世界トップクラス。なのに「出生率はいまだに置換水準の2.1をはるかに下回ったまま」だ。「男女格差を小さくしないと出生率は上向かない」などと訴える人はフィンランドの現実を見てほしい。そして出生率が「置換水準」を上回れないのは先進国に共通する傾向だ。

両親が共に働き、キャリアを追求しつつ家庭を築けるようになっても、平均出生率は1.5程度にしかならなそうなことが判明した」と「フィンランドの人口研究所のアンナ・ロトキルヒ研究教授」も述べている。

個人的には少子化歓迎なので「出生率の低さ」を「問題視」する必要はないと感じる。今回の記事でオコナー氏は「原因が何であれ出生率の低下は喜ぶべきことではない」と訴えており、この点で自分と考えは異なる。

だが、それはそれでいい。問題は男女格差の解消によって「出生率は上がるという期待」だ。欧州の動向などからは「どんなに男女格差の解消を進めても、先進国的な社会構造を変えない限り出生率は人口置換水準を下回る」と判断できる。

これは男女格差解消を訴える人にとっては都合が悪い。強力なエサがなくなるからだ。「男女格差の解消を進めないと少子化は克服できませんよ」という脅し文句に説得力はもはやない。

そのことをこの記事は教えてくれている。


※今回取り上げた記事「FINANCIAL TIMES~『日本化』する世界人口

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210813&ng=DGKKZO74719900S1A810C2TCR000


※記事の評価はB(優れている)

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