日本経済新聞の桃井裕理 中国総局長には書き手としての引退を勧告している。しかし聞き入れてもらえなかったようだ。17日の朝刊1面に「G7背水の再起動(下)日米欧の協調、重み増す 包囲網でも譲らぬ中国」という記事を書いている。これまでの記事に比べればまともだが、それでも問題は多い。一部を見ていこう。
西鉄大牟田線と筑後川 |
【日経の記事】
主要7カ国首脳会議(G7サミット)を間近に控えた9日、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は北京から約1800キロメートル離れた青海省にいた。同省は北京からみると中国最西部に広がる新疆ウイグル、チベット両自治区を塞ぐ関門のような位置にある。
習氏は、ウイグル人権問題へのG7の懸念に対抗するかのように、政務報告会で青海省幹部らを引き締めた。「青海は『穏疆固蔵(新疆とチベットを安定させる)』の戦略的要所にある。我が国の宗教の中国化を決して止めてはならない」
◎「宗教の中国化」?
「宗教の中国化」という聞き慣れない言葉が出てくる。「新疆ウイグル、チベット両自治区」と関係するのだろうが、具体的な説明はない。であれば「我が国の宗教の中国化を決して止めてはならない」というコメントは使わない方がいい。
続きを見ていこう。
【日経の記事】
中国共産党が建党100年を迎える2021年、世界は新たな岐路に立った。これまで中国とそれぞれ間合いを計ってきたG7は今回のサミットで足並みをそろえ、中国の人権問題や台湾問題を批判した。民主主義への新たな脅威とも位置付け、包囲網を構築した。
◎岐路に立ってる?
「岐路に立つ」とは重大な選択を迫られている状況の時に使う言葉だ。中国を「脅威」と位置付けるのか仲間と見なすのか選択を迫られる状況ならば「世界は新たな岐路に立った」でいいだろう。
しかし記事では「足並みをそろえ」で「包囲網を構築した」と書いている。ならば進む方向は決まったと見るべきだ。
少し飛ばして記事の中身を見ていく。
【日経の記事】
台湾海峡ではすでに中国は米台の軍事力を圧倒しつつある。米軍などの分析によると中国の主力戦闘機は25年に1950機と700機増え、このままではアジア前方の米軍の8倍になる。台湾を射程に収める短距離弾道ミサイルも750~1500発保有し、米領グアムを射程に入れる中距離弾道ミサイル配備の拡充も進める。
◎どの範囲で見てる?
「台湾海峡ではすでに中国は米台の軍事力を圧倒しつつある」と桃井総局長は言う。4月の記事では「インド太平洋地域では中国が米国の軍事力を物量的に圧倒し、米軍を寄せつけない防衛ラインを完成しつつある」と書いていた。
これは怪しいのではと指摘した効果があったのかどうか分からないが、今回は大きく絞って「台湾海峡」に限定している。しかし「台湾海峡」の範囲が広すぎる気がする。
「中国の主力戦闘機は25年に1950機」というのは、断定はできないが中国全体の数字だろう。「アジア前方」に至っては全く分からない。「アジア」に「前方」と「後方」があるのか。「アジア前方の米軍の8倍になる」とも書いているが、これには「米領グアム」を含むのか。仮に入らないのならば、入れて考える必要はないのか。色々と分からないことが多い。
記事の終盤を見ていく。
【日経の記事】
中国のそうした行動は西側諸国に一層の不安を与える。これを受けた対中措置は中国をまた警戒させ、さらなる軍事増強や投資拡大へと走らせる。民主主義を守るために、西側諸国は高いコストをかけてでも抑止力を強化するしかない。
中国共産党はなり振り構わず「自己の生存空間の確保」をめざす。香港の自由を力で抑え込み、台湾への圧力を急速に強めている。バイデン米大統領はG7会議終了後に「中国とは真っ正面から対応していく」と語った。問われているのは、民主主義の侵食を防ぐという覚悟だ。
◎色々と問題が…
気になった点を列挙してみる?
(1)「民主主義の侵食を防ぐ」?
「問われているのは、民主主義の侵食を防ぐという覚悟だ」と桃井総局長は記事を締めている。これだと「民主主義」に「侵食」されないようにすべきだとの意味に取れる。「民主主義への侵食を防ぐ」とした方がいい。
個人的には「西側諸国」という表現も引っかかる。冷戦終結に伴い東側がなくなったからだ。桃井総局長は「西側諸国」の範囲をどう見ているのだろうか。例えばウクライナは「西側諸国」なのか。だとすれば地理的にはかなり東だ。逆に「西側」ではないとすれば、何側なのだろう。
「民主主義を守るために、西側諸国は高いコストをかけてでも抑止力を強化するしかない」と桃井総局長は言う。台湾が中国の一部ならば、中国が台湾を武力で併合しても基本的には中国の国内問題だ。なのに「高いコストをかけてでも抑止力を強化」すべきなのか。
「台湾は民主主義陣営の一員であり西側諸国に属する仲間だ」と言うならば、まだ分かる。だったら台湾を国として承認した上で中国から守っていくべきだろう。
そこを曖昧にしたまま、憲法上の制約もある日本が台湾防衛の一翼を担うべきなのかは考えてほしい。
※今回取り上げた記事「G7背水の再起動(下)日米欧の協調、重み増す 包囲網でも譲らぬ中国」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210617&ng=DGKKZO72963700X10C21A6MM8000
※記事の評価はD(問題あり)。桃井裕理 中国総局長への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。桃井総局長に関しては以下の投稿も参照してほしい。
「米ロ関係が最悪」? 日経 桃井裕理記者「風見鶏」に異議ありhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_1.html
問題多い日経 桃井裕理政治部次長の「風見鶏~『東芝ココム』はまた起きる」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/blog-post_19.html
日経「風見鶏~『台湾有事』と経済安保」に見える桃井裕理記者の誤解https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/04/blog-post_18.html
台湾有事で「最悪の想定」が米中にらみあい? 日経 桃井裕理記者に感じる限界https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/04/blog-post_19.html
「新時代の日米(下)」を書いた日経の桃井裕理 中国総局長に引退勧告https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/04/blog-post_21.html
書き手としての引退を勧告しているならば率直にFと評価するべきであろう。また文意のつたわらぬ記事にDの評価は甘い。総じて手垢のついた決めつけはジャーナリスト失格である。
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