2021年6月4日金曜日

「国債は将来世代の負担なのか」と日経で問うた門間一夫氏に同意

4日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「エコノミスト360°視点~国債は将来世代の負担なのか」という記事は評価できる。筆者の門間一夫氏(みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)の主張を見ていこう。

河口付近の筑後川

【日経の記事】

以前から気になっていることがある。国債残高が積み上がっていることへの批判として、「将来世代に負担を先送りするな」と言われる点についてである。筆者がなぜこの言い方に違和感を覚えるのか、理由を3つ述べたい。

第1に、この言い方には「今の国債残高は必ず減らさなければならない」という大前提がある。「今増税する」か「後で増税する」かしかないので、今増税しなければ将来の増税が重くなるという話である。しかし、今の国債残高を減らさなければならないかどうかはそれほど自明ではない

日本の国債残高が過去最大で他の国よりも大きいのは事実だが、その裏には民間では満たすことが難しい国民のニーズ、大規模な資金偏在、民間需要の弱さなど様々な要因がある。景気の過熱、金利の上昇、民間企業の資金調達の圧迫など、「国の借り入れが過大である」ことを示す現象も起きていない

第2に、日本の国債残高は確かに膨大だが、民間金融資産の残高はそれ以上に膨大である。将来世代には多額の国債が引き継がれていくであろうが、同時に多額の民間金融資産も引き継がれていく。差し引きで見れば、将来世代の手元へ渡るのは債務ではなく財産である

第3に、それでもやはり国債残高は減らすべきだ、という判断があってもよいとは思うが、それをあたかも「世代間」の負担の押し付け合いのように捉えてしまうと、「世代内」の公平性という重要な論点が見えにくくなる。

財政や社会保障の議論は、高齢世代が勝ち組で若年世代が負け組というざっくりした前提で語られることが多い。しかし高齢世代ほど資産、所得、健康の格差は大きく、将来不安は多くの中高年が直面している問題でもある。逆に、若年世代でも裕福な親を持てば生まれながらにして勝ち組である。世代内の格差や、それが次世代に引き継がれる傾向を是正することこそ、財政に課された重要な使命の一つである。


◎両面を見れば…

国債残高が積み上がっていることへの批判として、『将来世代に負担を先送りするな』と言われる点」については自分も疑問を感じていた。特に同意できるのは「第2」の「理由」だ。

将来世代には多額の国債が引き継がれていくであろうが、同時に多額の民間金融資産も引き継がれていく」ことを忘れたかのような主張は確かに多い。「将来世代」に「負担を先送り」しないようにと大幅な増税に踏み切ったりすると「民間金融資産」の減少を招く。それが「将来世代」のためになるとは言い切れない。国債は政府から見れば債務だが、それを保有する主体から見れば債権だ。その両面を見れば「将来世代に負担を先送りするな」という単純な主張にはならないはずだ。

今の国債残高を減らさなければならないかどうかはそれほど自明ではない」との指摘も肯ける。大幅なインフレにでもならない限り「国債残高」を減らす必要性は感じない。

日経は昨年9月21日の「財政再建の道筋を示す責任がある」という社説で「『国民』のために働くというのが菅内閣の看板だ。いまの国民に報いるだけでなく、次世代にツケを残さぬ政権でもあってほしい」と訴えていた。だから「財政再建の目標と処方箋を示し、国民的な合意を形成しなければならない」という訳だ。

財政再建の道筋を示す」必要があるのかどうかを日経の論説委員には改めて考えてほしい。「財政再建」を進めないと本当に「次世代にツケ」を残すのか。それを判断する上で門間氏の指摘が参考になるはずだ。


※今回取り上げた記事「エコノミスト360°視点~国債は将来世代の負担なのか

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210604&ng=DGKKZO72552650T00C21A6TCR000


※記事の評価はB(優れている)

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