2021年6月28日月曜日

「財政破綻はある日突然」? 日経 大林尚上級論説委員「核心」に見える根拠なき信仰

28日の日本経済新聞朝刊オピニオン2面に載った「核心~財政破綻リスクに蓋するな 『ある日突然』やってくる」という記事で大林尚 上級論説委員が雑な主張を展開している。「『ある日突然』やってくる」との見立てに説得力があるのか。記事の終盤を見てみよう。

耳納連山と夕陽

【日経の記事】

手をこまぬいていれば、財政破綻のリスクが高まるとみるのが道理に思える。だが、それがいつどういうかたちで起きるのか、答えを導くのは容易ではない。思い起こすべきは首都直下地震の想定だ。政府の調査委員会は30年以内の発生確率を70%と予測している。財政破綻のリスクも、私たち納税者に具体的なイメージを抱かせるのが政府の役割であろう

世代の違いによって生ずる負担・受益の格差を推計する世代会計の研究者、中部圏社会経済研究所の島澤諭研究部長(内閣府出身)は「財政破綻は日常の延長線上に起きるのではなく、ある日突然起きるものだ」と考えている。

非日常の日常化に慣れきってしまうのは、危うい。


◎もはや宗教?

財政破綻」が「いつどういうかたちで起きるのか、答えを導くのは容易ではない」と大林上級論説委員は言う。「いつ」はともかく「どういうかたちで起きるのか」も分からないのに「財政破綻のリスクが高まるとみるのが道理に思える」のが不思議だ。

例えば企業ならば「破綻」が「どういうかたちで起きるのか」は容易にイメージできる。赤字続きで資金流出が続き、新規の資金調達に応じてくれる金融機関や投資家もいなくなる。そのために借金返済に充てる資金が尽きて「破綻」となる。こんなところだろう。

しかし「財政破綻」は企業の「破綻」とは決定的に異なる。政府・日銀には日本円を無から生み出す力がある。そこを大林上級論説委員がどう考えるのか。記事からは見えない。

大林上級論説委員は「財政破綻」を「首都直下地震」と似たものとして論じているが、これも苦しい。「地震」は「どういうかたちで起きるのか」が大筋で分かっている。「どういうかたちで起きるのか」さえイメージできない「財政破綻」と同列に論じるべきではない。

しかし「財政破綻」が起きる可能性は十分にありとの考えは揺らがないようだ。「(財政破綻は)ある日突然起きるもの」という「中部圏社会経済研究所の島澤諭研究部長」のコメントを疑うことなく使っている。そして、なぜ「ある日突然起きる」と言えるのかは説明していない。

ここまで来ると、もはや宗教だ。まともな根拠もなく「ある日突然起きるものだ」と信じているのだろう。もう少し緻密に考えてほしい。

大林上級論説委員には「財政破綻のリスクが高まるとみるのが道理」ではないと伝えたい。円建ての政府債務に関して日本政府の返済能力に限界はない。金本位制でもないので、政府・日銀は無限に日本円を創出できる。政府支出額の上限を法律で定めたりしない限り「財政破綻のリスク」はゼロと見ていい。

「いや違う」と大林上級論説委員が信じるならば、上記の説明に対して反論を考えればいい。例えば「政府・日銀に日本円を無限に創出する力はない」と立証してもいいだろう。できなければ「自分の考えが間違っていたのかも?」と問い直してほしい。

財政破綻のリスクも、私たち納税者に具体的なイメージを抱かせるのが政府の役割であろう」と大林上級論説委員は言うが「政府」は既に「役割」を果たしている。

財務省のホームページには「外国格付け会社宛意見書要旨」が載っていて、そこには「日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。デフォルトとして如何なる事態を想定しているのか」と記されている。「政府・日銀は無限に日本円を創出できる」と財務省も認識しているのだろう。

非日常の日常化に慣れきってしまうのは、危うい」と大林上級論説委員は記事を締めている。それよりも「まともな根拠もないのに、財政破綻が起きると信じるのは危うい」ことに早く気付いてほしい。


※今回取り上げた記事「核心~財政破綻リスクに蓋するな 『ある日突然』やってくる」 https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210628&ng=DGKKZO73274200V20C21A6TCT000


※記事の評価はD(問題あり)。大林尚上級論説委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を維持する。大林氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 大林尚編集委員への疑問(1) 「核心」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_72.html

日経 大林尚編集委員への疑問(2) 「核心」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_53.html

日経 大林尚編集委員への疑問(3) 「景気指標」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post.html

なぜ大林尚編集委員? 日経「試練のユーロ、もがく欧州」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_8.html

単なる出張報告? 日経 大林尚編集委員「核心」への失望
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_13.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_16.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_17.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_33.html

まさに紙面の無駄遣い 日経 大林尚欧州総局長の「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_18.html

「英EU離脱」で日経 大林尚欧州総局長が見せた事実誤認
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_25.html

「英米」に関する日経 大林尚欧州総局長の不可解な説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_60.html

過去は変更可能? 日経 大林尚上級論説委員の奇妙な解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_14.html

年金に関する誤解が見える日経 大林尚上級論説委員「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/11/blog-post_6.html

今回も問題あり 日経 大林尚論説委員「核心~高リターンは高リスク」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_28.html

日経 大林尚論説委員の説明下手が目立つ「核心~大戦100年、欧州の復元力は」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/100.html

株安でも「根拠なき楽観」? 日経 大林尚上級論説委員「核心」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_20.html

日経 大林尚上級論説委員の「核心~桜を見る会と規制改革」に見える問題
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_25.html

2020年も苦しい日経 大林尚上級論説委員「核心~選挙巧者のボリスノミクス」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/2020.html

年金70歳支給開始を「コペルニクス的転換」と日経 大林尚上級論説委員は言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/70.html

「オンライン診療、恒久化の議論迷走」を描けていない日経 大林尚編集委員「真相深層」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/11/blog-post_21.html

0 件のコメント:

コメントを投稿