2021年4月5日月曜日

ジェンダー・ギャップ指数ランキングは上げるべき? 日経女性面の記事に思うこと

ジェンダー・ギャップ指数」をベースに「日本は何とかしなければ」と訴える記事をよく目にする。しかし、基本的に意味がない。5日の日本経済新聞朝刊女性面の「ジェンダー・ギャップ120位の波紋」という記事の関連コラム「取り組まない理由なし」を材料にこの問題を考えてみよう。

道の駅 水辺の郷 おおやま

まずメインの記事の「世界各国の男女平等の度合いをランキングした『ジェンダー・ギャップ指数2021』」という説明がおかしい。「男女平等」を実現しても「ジェンダー・ギャップ」は生じ得る。例えば看護師は90%以上が女性だ。この分野の「ジェンダー・ギャップ」は大きい。ゆえに「男女平等」ではないと言えるだろうか。

毎日新聞は3月31日付の記事で「世界各国の男女格差を測る『ジェンダーギャップ指数』」と説明している。この方が適切だ。日経も見習ってほしい。

ここから「取り組まない理由なし」の中身を見ていこう。全文は以下の通り。

【日経の記事】

日本の人口減少は深刻だ。すでに15~64歳の生産年齢人口は激減している。少子化は先進国共通の課題とはいえ、フランスやスウェーデンなど対策が一定の効果を上げている国はある。いずれもジェンダー・ギャップ指数ランキングの上位国だ

人口が減っても、生産性を高めることである程度の経済力は維持できる。だが、日本生産性本部によると、日本の就業者1人当たりの労働生産性は8万1千ドルで、経済協力開発機構(OECD)の加盟国平均(10万ドル)を下回る。主要7カ国(G7)で最下位だ。アイスランドやフィンランドなどランキング上位3カ国にも遠く及ばない。

なぜ上位国は男女平等に取り組めるのか。当たり前のことであり、国として効果があると考えるからだ。人口減少の先頭集団にいる日本が女性活躍を進めない理由はない


◇   ◇   ◇


疑問点を挙げてみる。

(1)何位になればいい?

ジェンダー・ギャップ指数」のランキングを問題視する人に考えてほしいのは「何位になればいいのか」だ。10位以内なのか。100位以内なのか。あるいはG7で最下位がまずいのか。そして、なぜその順位を目指すのか。仮に10位以内を目指すとして、11位ではなぜダメなのか。

世界中の国が「ジェンダー・ギャップ」の解消に真剣に取り組み、ほとんどの「ジェンダー・ギャップ」をなくしたとしても、最下位の国は出てくる。相対評価だからだ。

仮に「ジェンダー・ギャップ」が好ましくないものだとしても、解消の達成度合いをランキングで測るのは問題が多い。「10位以内が合格」とすると、ほとんど「ジェンダー・ギャップ」がない状況を世界が作り上げても、大多数の国は不合格になってしまう。


(2)少子化対策になる?

少子化は先進国共通の課題とはいえ、フランスやスウェーデンなど対策が一定の効果を上げている国はある。いずれもジェンダー・ギャップ指数ランキングの上位国だ」という書き方がズルい。「ジェンダー・ギャップ指数ランキングの上位国」になれば「少子化」問題をかなり解決できるような印象を与えている。

しかし「少子化は先進国共通」だ。出生率で2を少し上回る人口置換水準を合格点とすれば「ジェンダー・ギャップ指数ランキング」が上でも下でも、ほとんどの「先進国」は落第点だ。

落第組の中で「フランスやスウェーデン」の点数が少し高いとしても、ドングリの背比べに過ぎない。そもそもランキング1位のアイスランドや2位のフィンランドでも「少子化」は続いている。出生率も低い。「ジェンダー・ギャップ指数」を向上させても少子化問題は解決しないと見るのが自然だ。


(3)生産性が高まる?

ジェンダー・ギャップ指数ランキング」が上がれば「生産性を高め」られるのか。「(日本の生産性は)アイスランドやフィンランドなどランキング上位3カ国にも遠く及ばない」とは書いているが、「生産性を高め」られると言える根拠は示していない。

例えば国会議員の女性比率を50%に引き上げれば「ジェンダー・ギャップ指数ランキング」は上がるだろう。しかし直接的に「生産性を高め」られる訳ではない。「生産性を高め」られると筆者が信じているのならば明確なエビデンスを示すべきだ。


(4)男女平等とは別

なぜ上位国は男女平等に取り組めるのか。当たり前のことであり、国として効果があると考えるからだ」と記事では書いている。繰り返すが「ジェンダー・ギャップ」をなくすことが「男女平等」ではない。

例えば「男女平等」の原則に基づいて学力だけで合否を決めると、東京大学の入学者に占める女性比率は20%にとどまるとしよう。そこで、女性比率を50%に高めるクオータ制を導入すると「ジェンダー・ギャップ」はなくなる。しかし「男女平等」は崩れて女性優遇となってしまう。

なぜ上位国は男女平等に取り組めるのか」という問い自体に問題がある。「上位国」が「ジェンダー・ギャップ」を減らすためにクオータ制などを導入している場合「男女平等」を犠牲にしていると見るべきだ。


(5)「女性活躍」とも別

人口減少の先頭集団にいる日本が女性活躍を進めない理由はない」と記事を締めているが「ジェンダー・ギャップ」が大きいからと言って「女性活躍」が進んでいない訳ではない。

もちろん「女性活躍」の定義次第ではある。「国会議員の女性比率=女性の活躍度」とすれば日本の「女性活躍」は大したことがない。しかし広く社会に貢献しているかどうかで「活躍」の度合いを見るならば、今も昔も「女性活躍」社会だ。さらに「女性活躍」を進める必要はない気がする。

記事の筆者にはぜひ日経社内を見回してほしい。「活躍しているのは男性ばかりで、女性は活躍していないなぁ」と感じるだろうか。そこに答えの欠片が転がっているはずだ。


※今回取り上げた記事「取り組まない理由なし

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210405&ng=DGKKZO70611630S1A400C2TY5000


※記事の評価はD(問題あり)

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