2021年4月4日日曜日

「一億総中流もはや過去」と日経1面連載「パクスなき世界」は言い切るが… 

4日の日本経済新聞朝刊1面に載った「パクスなき世界~繰り返さぬために(4) 『一億総中流』もはや過去 成長と安全網、両輪で」は苦しい内容だった。日本国内の話に終始しており「パクスなき世界」というテーマから外れてきている。しかも「『一億総中流』もはや過去」と言える根拠も弱い。その部分を見てみよう。

耳納連山に沈む夕陽

【日経の記事】

特に影響が大きいのが女性だ。野村総合研究所はパート女性らのうち勤務シフトが5割以上減り、かつ休業手当を手にしていない「実質的失業者」は、20年末の90万人から21年2月に103万人に増えたと推計する。

労働力調査によると、母子世帯は20年10~12月に71万世帯と、前年同期から13万世帯も増えた。労働政策研究・研修機構の20年11月の調査では、ひとり親世帯の6割が20年末にかけ暮らし向きが「苦しい」と回答した。

過去30年の低成長で生活保護の受給者も増えていた。コロナ禍は、中間層の厚みを背景に社会の安定を誇った「一億総中流社会」が過去のものであることを鮮明にした


◎「『一億総中流』もはや過去」と言いたいのなら…

2019年12月5日付の日経の記事で「(生活の程度を尋ねる設問に対し)70年代前半には、『中』と回答した人が9割を超えました。これが総中流社会の意味するところです」と東北学院大学教授の神林博史氏が書いている。その通りだろう。

今回の連載の取材班が「『一億総中流』もはや過去」と訴えたいのならば「『中』と回答した人」の割合はこんなに下がったと見せてあげればいい。しかしその道を選んでいない。「過去30年の低成長で生活保護の受給者も増えていた」などと書いているだけで「中流」意識がどうなったのかは教えてくれない。

一方、神林氏はこの点に触れている。「中流意識はどう変化したかというと、実はほとんど変化していません。『中』回答は現在まで9割前後の水準を維持しています」と記している。これが事実ならば「『一億総中流』もはや過去」とは言い難い。

『中』と回答した人」の比率は変わらなくても「一億総中流」だと思う人は少なくなっているといった見方はできるかもしれない。神林氏もそういう認識のようだ。

取材班も同じ認識ならば「『中』と回答した人」の比率に触れた上で「『一億総中流』もはや過去」と納得させる材料を提示すべきだ。「生活保護の受給者」が増えていても「一億総中流」意識が消えるとは限らない。今回示した材料では「『一億総中流』もはや過去」とは感じられない。

『中』と回答した人」の比率に大きな変化がないことを取材班は知っているのではないか。自分たちの思い描くストーリーに合わないから、あえて無視して記事を組み立てたのだろう。だが、それでは説得力は出ない。

生活保護の受給者」にしても、記事に付けたグラフを見ると過去10年は減少傾向だ。これでは、ご都合主義的にデータを用いたと言われても仕方がない。

そして「変えるべきものを変え、成長の道筋を取り戻す。それが忍び寄る分断を防ぐための前提になる」という当たり障りのない結論を導いている。訴えたいことが明確にならないまま連載を続けたので、最終回の結論がこんなものになってしまったのではないか。

パクスなき世界」シリーズをさらに続けることはお薦めしない。しかし、どうしても再びやりたいのならば「自分たちが本当に訴えたいこと、自分たちだから訴えられることは何なのか」を取材班のメンバーは改めて自問してほしい。


※今回取り上げた記事「パクスなき世界~繰り返さぬために(4) 『一億総中流』もはや過去 成長と安全網、両輪で

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210404&ng=DGKKZO70674120U1A400C2EA2000


※記事の評価はD(問題あり)

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