20日の日本経済新聞朝刊1面に甲原潤之介記者(安全保障エディター)が書いた「新時代の日米(中)有事にらみ危機感共有~自立した『防衛力』急務」という記事はツッコミどころが多かった。中身を見ながら具体的に指摘していく。
岡城跡の廉太郎銅像 |
【日経の記事】
米ソ冷戦の最前線が欧州なら、日本を含む東アジアは米中対立のフロントライン。日本の防衛力は同盟国の対中抑止力を左右する。
◎東アジアは冷戦の「最前線」にあらず?
「米ソ冷戦の最前線が欧州なら、日本を含む東アジアは米中対立のフロントライン」と言われると「東アジア」は「米ソ冷戦の最前線」ではなかったと感じる。しかし同意できない。朝鮮半島の38度線を筆頭に「日本を含む東アジア」は「米ソ冷戦の最前線」だったと感じる。
ついでに言うと、なぜ「最前線」を「フロントライン」と言い換えているのか。無駄な横文字は使わないでほしい。
続きを見ていこう。
【日経の記事】
日本の安全保障体制は自立した防衛力と日米同盟の2本柱だ。日米安保条約第5条は米国による日本防衛の義務を定めるものの、敵からの攻撃の第1波に米軍が間に合う可能性は極めて低い。その間は自衛隊だけで守るのが大前提となるが、持ちこたえられるのか。
尖閣諸島に中国軍が上陸して侵攻しようとした場合、それを阻止する陸上自衛隊の水陸機動団の拠点は長崎県内にある。尖閣諸島までおよそ1000キロで、新型輸送機オスプレイでも2時間かかる。中国の侵攻の意図が分かって部隊を派遣しても手遅れとなる。
◎何のために沖縄の米軍基地はある?
この記事に書いてあることが正しいとすれば、在日米軍は必要ない。「敵からの攻撃の第1波に米軍が間に合う可能性は極めて低い。その間は自衛隊だけで守るのが大前提」なのに、わざわざ日本に基地を置かせて意味があるのか。
「尖閣諸島に中国軍が上陸して侵攻しようとした場合」も沖縄の米軍は動きが遅いのだろう。長崎県にある「陸上自衛隊の水陸機動団の拠点」から兵力を投入して対応し、その後で米軍がやってくるのだから、グアムやハワイから来てもらっても大差ない。
「持ちこたえられるのか」という問題意識を甲原記者が持っているのならば「日米同盟」が「柱」になるのかどうかを考えた方がいい。沖縄の在日米軍には撤退してもらって「陸上自衛隊の水陸機動団の拠点」を沖縄に移す方が「敵からの攻撃の第1波」に備える上では有効なはずだ。
今回の記事で最も引っかかったのが以下のくだりだ。
【日経の記事】
仮に中国が台湾を武力で統一しようとすれば、台湾に攻め込む中国軍を止めるのも米軍だ。集団的自衛権を行使して米軍への攻撃に自衛隊が反撃できるようにするには「存立危機事態」に認定する必要がある。台湾有事がそれに当たるかはときの政権の判断となる。
◎色々と疑問が…
「台湾に攻め込む中国軍を止めるのも米軍だ」と書いているが、そもそも米国に軍事力を行使する正当性はあるのか。米国は台湾を中国の一部と見なす「1つの中国」政策を放棄してはいない。となれば中国が「台湾に攻め込む」のは自国領土の実効支配を取り戻そうとする動きになる。
「1つの中国」を認めていながら、中国と戦ってまでも台湾を守ろうとするのは理屈に合わない。台湾は米国の同盟国ではない。そもそも国として認めていない。なのに「台湾に攻め込む中国軍を止めるのも米軍」なのか。だとしたら、なぜそうなるのかの説明が欲しい。
さらに言えば、実力的に「台湾に攻め込む中国軍を止める」力が「米軍」にあるのかという疑問も残る。甲原記者の見立てでは、日本に基地を持っていながら「(日本に対する)敵からの攻撃の第1波に米軍が間に合う可能性は極めて低い」はずだ。台湾に米軍基地はない。ならば台湾への「第1波」に「米軍」が間に合う可能性はゼロに近い。
やはり「台湾に攻め込む中国軍を止める」のは「米軍」ではなく「台湾」自身だと考えるしかない。「台湾」にその力がなければ、中国は「米軍」がのんびりやってくる前に台湾を実効支配する。そうなった時に「1つの中国」を認めている「米軍」が台湾に侵攻して奪還を試みるのか。ちょっと考えにくい。
甲原記者の認識を基にすれば「米軍には期待できない。日本も台湾も自分のことは自分で守るしかない」と考えるべきだ。なのに、なぜか「台湾有事は対岸の火事で済まない。首脳会談で共有した危機感を防衛力の向上につなげることが急務となる」となってしまう。
日経は「日米同盟の強化」を訴えるのが大好きだ。しかし、コストの割に役に立たない同盟を強化しても意味がない。思い込みを排して「日米同盟は有事に役に立たないのでは」と考えてみてほしい。
※今回取り上げた記事「新時代の日米(中)有事にらみ危機感共有~自立した『防衛力』急務」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210420&ng=DGKKZO71166210Q1A420C2MM8000
※記事の評価はD(問題あり)。甲原潤之介記者への評価はC(平均的)からDへ引き下げる。甲原記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。
日経 甲原潤之介記者は「非核化の歴史3勝3敗」と言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/33.html
どうなったら「世界分裂」? 日経 甲原潤之介記者に問うhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_25.html
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