2021年3月5日金曜日

プレジデントオンラインでのMMT否定論が的外れな明石順平氏

MMTを否定的に取り上げた記事に説得力はない。この経験則は今のところ外れがない。3日付のプレジデントオンラインに弁護士の明石順平氏が書いた「『値段が同じなのに食品が小さく』アベノミクスが招いた"通貨安インフレ"の怖さ~MMT論者は『返済』を軽視しすぎだ」も例外ではなかった。

アオサギ

記事の中身を見ていこう。

【プレジデントオンラインの記事】

しかし、財政への信頼喪失からくる通貨安インフレは、モノやサービスの需給とは別の次元の話です。現に、アベノミクスでも円安インフレは発生していますが、これは日本国内の需要が増えたからではなく、単なる通貨安インフレです。MMT論者は、この「通貨安インフレ」というものを全く無視しています

日本のMMT論者を見ていると、「物価上昇率前年比2%を達成するまでは財政拡大してよい」と主張する人が多いようですが、極端な財政支出の拡大をすれば、円安インフレによってあっという間に前年比2%は達成されてしまうでしょう。アベノミクスだって、2014年から15年にかけての原油の暴落という偶然が無ければ、前年比2%が達成されていたことは確実です。しかし、それは単に通貨の価値が落ちたことによるインフレですので、国民にとって全く意味の無い悪いインフレです。


◎「通貨安インフレ」を無視?

自国通貨建ての国債はデフォルトにならないので、インフレにならない限り、財政赤字は問題無い」というのが「MMT」の考えだと明石氏も書いている。「MMT論者は、この『通貨安インフレ』というものを全く無視しています」と言うが、「MMT」は裏返して言えば「インフレになると財政赤字を問題視する」考えだ。「通貨安インフレ」も除外していない。何を根拠に「通貨安インフレ」を「全く無視」と判断したのか。

通貨安インフレ」は「国民にとって全く意味の無い悪いインフレ」かもしれない。しかし「MMT」は「通貨安インフレ」を含む「インフレ」を軽視していない。この点で明石氏と大きな違いはない。

明石氏の「MMT」否定論をさらに見ていこう。

【プレジデントオンラインの記事】

日本がやっていることは、ポンジスキームに他なりません。したがって、投資家達が手を引けば、あっという間に国債が暴落します。毎年発生する莫大な償還金も、新しく金を借りられるから一応形の上では返済できているのです。しかし、借金の貸し手がいなくなれば、それは成り立ちません。国債が暴落すれば、通貨も運命を共にしますので、通貨も暴落し、凄まじい通貨安インフレが発生します。これが大規模に発生したのが、1980年代〜90年代における中南米の債務危機でした。

要するに、MMT論者は「返済」という要素を異常に軽視しているのです。借金で通貨が増えていくという理解は合っていますが、返済スケジュールが守られることが最も重要な要素です。


◎大きな勘違いが…

投資家達が手を引けば、あっという間に国債が暴落します」というのは大きな勘違いだ。日銀が徹底的に買い支えるとしたらどうか。日銀の国債購入能力に限界はない。その気になれば、全ての日本国債を買い入れることもできる。どこかに限界があると明石氏は見ているのか。だとしたら、それはどこなのか。思い付かないはずだ。

投資家達が手を引いても、日銀が買い支えれば国債は暴落しない。日銀の購入能力に資金的な限界はない」と考えるべきだ。

もちろん全ての国に当てはまる訳ではない。強い通貨主権を持っている日本だからできることだ。「自国通貨建ての国債はデフォルトにならないので、インフレにならない限り、財政赤字は問題無い」というのが「MMT」の主張だ。米ドル建ての債務を抱えた中南米の国が首が回らなくなる可能性は十分にある。「自国通貨」を持たないユーロ圏の国も「国債が暴落」するリスクを抱えている。

何のためにわざわざ「自国通貨建ての」と断っているのかを明石氏は考えるべきだ。「MMT論者は『返済』という要素を異常に軽視している」のではない。「自国通貨」を持つ国は「自国通貨建ての国債」の「返済」能力を心配しなくていいという当たり前の主張をしているだけだ。

最後に明石氏の主張の矛盾を1つ挙げておこう。

毎年発生する莫大な償還金も、新しく金を借りられるから一応形の上では返済できているのです。しかし、借金の貸し手がいなくなれば、それは成り立ちません」と言う一方で「形式的にデフォルトを避けるためなら、最後は自国の中央銀行に直接引受をさせればよい」とも書いている。

形式的にデフォルトを避ける」ことができるのに「借金の貸し手がいなくなれば」返済はできなくなるのか。それは「形式的」に見ても「デフォルト」ではないのか。

借金の貸し手がいなく」なった時に「自国の中央銀行に直接引受をさせ」た場合、「一応形の上では返済できている」と言えるのか、言えないのか。よく考えれば、自分の主張のおかしさに気付けるはずだ。


※今回取り上げた記事「『値段が同じなのに食品が小さく』アベノミクスが招いた"通貨安インフレ"の怖さ~MMT論者は『返済』を軽視しすぎだ」https://president.jp/articles/-/43691


※記事の評価はE(大いに問題あり)

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