「高い地位にある高齢男性」が「企業で女性の役員登用が進んでいない理由を問われて、『女性側に原因がないこともない』とし、さらに『チャンスを積極的に取りにいこうとする女性がそれほど多くないのではないか』」と述べた場合、「失言」と言えるだろうか。日経ビジネス3月1日号に載った「小田嶋隆の『Pie in the sky』絵に描いた餅ベーション~分かっちゃいるけど失言しちゃう」という記事でコラムニストの小田嶋隆氏は「失言」と決め付けているが、同意できない。問題の部分を見てみよう。
夕暮れ時の筑後川 |
【日経ビジネスの記事】
中西会長の失言から約1週間後の16日、今度は経済同友会の桜田謙悟代表幹事が、企業で女性の役員登用が進んでいない理由を問われて、「女性側に原因がないこともない」とし、さらに「チャンスを積極的に取りにいこうとする女性がそれほど多くないのではないか」と、ダメを押したことで、めでたく炎上する次第となった。
この発言も精いっぱい気持ちを汲んで差し上げれば、特段に事実と異なった内容を述べているわけではない。実際に女性の側にも問題はあるだろうし、役員就任に消極的な女性も少なくないはずだからだ。
思うに、両者の発言がアウト判定をくらった理由は、地位にふさわしいポジショントークを求められている場所で、うっかり本音を漏らしたからだ。
経営者は、リアリストでないといけない。彼らは「理想はともかく、現実はこんなもんだろ?」という冷徹な現実認識から戦略を組み立てる。一方、経済団体のリーダーは、リアルとは正反対の「建前」「理想」「高く掲げる目標」に立脚した展望を求められる。
たとえば女性登用について「すぐには無理だわな」という本音と「喫緊の課題として取り組まなければならない」という建前が併存している場合、企業の経営者なら前者を選んでもよい。しかし、経済団体のトップなら、断然、後者を告知しなければならない。というのも、トップ経済人は内外の企業や社会に向けて理想を掲げるのが仕事だからだ。いや、こんなことは私が言うまでもなく、偉い人たちは十分に承知している基本中の基本だ。
その当たり前の基本のABCを、経済人のトップが踏み外してしまうのは、結局、われわれの社会の中で、本音と建前(あるいは現実と理想)が、あまりにも乖離しているからなのだろう。
してみると、間違っているのはどっちなのだろう。社会の現実の方だろうか。それとも、掲げている理想が見当違いなのだろうか? 間違っているのは現実だ、と、答えておくところなのだろうね。社会派コラムニストのポジショントークとしては。
◎「炎上」したら「アウト」?
「失言」とは「言うべきではないことを、うっかり言ってしまうこと。また、その言葉」(デジタル大辞泉)という意味だ。
「経済同友会の桜田謙悟代表幹事」の発言が「特段に事実と異なった内容を述べているわけではない」と小田嶋氏も認めている。それでも「失言」に分類しているのは「地位にふさわしいポジショントークを求められている場所で、うっかり本音を漏らした」からだと言う。
まず「地位にふさわしいポジショントークを求められている」のか疑問だ。“失言”が飛び出したのは定例記者会見の場だ。出席する記者の立場としては、当たり障りのない発言よりも、見出しの立ちそうな発言を「求め」ていそうだ。「地位にふさわしいポジショントーク」が「喫緊の課題として取り組まなければならない」といった面白くも何ともない発言だとしたら、それを「求め」ているのは記者ではないだろう。「経済同友会」のスタッフ辺りか。だとして、その「求め」に応じるべきなのか。
仮に「地位にふさわしいポジショントーク」をすべきだったとしよう。その場合でも、今回の発言が該当しないとは言い切れない。「経済団体のトップ」として「告知しなければならない」のは「経営側ばかりに問題を求めるのは間違いだ」という点だとも考えられる。だとすると「経済同友会の桜田謙悟代表幹事」は事実誤認などの問題がない範囲で「地位にふさわしいポジショントーク」をしたとも言えそうだ。
発言が「炎上」したからと言って「アウト判定をくらった」と決め付ける必要もない。問題は中身だ。例えば、日米開戦前に経済界の要人が「米国と戦うなんて無謀なことは考えるべきではない。やっても勝てるはずがない」と発言して「炎上」したとしよう。この場合、「地位にふさわしいポジショントーク」はできていないかもしれない。だからと言って「失言」と評価すべきなのか。
裸の王様を見ても「立派な服ですね」と称賛することを「ポジショントーク」として求められていたら、それに従うのが「基本中の基本」なのか。だとしたら、その「基本中の基本」は捨てていい。
小田嶋氏の言う「本音と建前(あるいは現実と理想)」が何を指すのか明確ではないが、仮に「本音=女性側に原因がないこともない」「建前=女性側には全く原因がない」だとしたら、間違っているのは明らかに「建前」の方だ。間違った「建前」を基に議論を進めていいのか。
「間違っているのは建前(理想)だ」と「社会派コラムニストのポジショントークとしては」答えておくべきだ。小田嶋氏には、そこに気付いてほしい。
※今回取り上げた記事「小田嶋隆の『Pie in the sky』絵に描いた餅ベーション~分かっちゃいるけど失言しちゃう」
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00106/00105/?P=1
※記事の評価はD(問題あり)。小田嶋隆氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。
どうした小田嶋隆氏? 日経ビジネス「盛るのは土くらいに」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_25.html
山口敬之氏の問題「テレビ各局がほぼ黙殺」は言い過ぎ
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/06/blog-post_10.html
小田嶋隆氏の「大手商業メディア」批判に感じる矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_12.html
杉田議員LGBT問題で「生産性」を誤解した小田嶋隆氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/lgbt.html
「ちょうどいいブスのススメ」は本ならOKに説得力欠く小田嶋隆氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/ok.html
リツイート訴訟「逃げ」が残念な日経ビジネス「小田嶋隆のpie in the sky」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/pie-in-sky.html
「退出」すべきは小田嶋隆氏の方では…と感じた日経ビジネスの記事https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_16.html
「政治家にとってトリアージは禁句」と日経ビジネスで訴える小田嶋隆氏に異議ありhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_10.html
「利他的」な人だけワクチンを接種? 小田嶋隆氏の衰えが気になる日経ビジネスのコラムhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_15.html
根拠示さず小林よしのり氏を否定する小田嶋隆氏の「律義な対応」を検証https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_28.html
小田嶋隆氏が日経ビジネスで展開した「コロナ楽観論批判」への「反論」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_29.html
「女性限定の反撃」は「罪」? 小田嶋隆氏が日経ビジネスで展開した無理筋https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/01/blog-post_25.html
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